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基本的例題(II) 物理学基礎論 A 運動の法則

第 6 講        (平成 19 年 5 月 15 日)



(基本的例題)


今回から二回に渡って、幾つかの基本的例題を通じて運動方程式の解法の 具体的な方法を示す。一般に、運動方程式の解法は次の4つのステップから なる。

(1)
物体に働く力を全て探し出す。
(2)
運動方程式をたてる。
(3)
一般解を求める。
(4)
初期条件から題意に即した解を得る。


1. 放物運動


水平方向に $ x$ -軸、$ y$ -軸、垂直方向に $ z$ -軸をとり、 それぞれの方向への単位ベクトルを $ {\boldsymbol e}_x$ , $ {\boldsymbol e}_y$ , $ {\boldsymbol e}_z$ とする。 $ x$ -$ z$ 平面内で仰角 $ \theta$ の方向に大きさ $ v_0$ の速度で 打ち上げた玉 (質量 $ m$ とする) の水平面での到達距離を求める。 座標系 $ {\cal K}(O; {\boldsymbol e}_x, {\boldsymbol e}_y, {\boldsymbol e}_z)$ は絶対静止座標系で慣性系で あると仮定する。すなわち、地球の自転等の効果は無視する。


(1) 玉に働く力は、 $ {\boldsymbol W}=-mg {\boldsymbol e}_z$         (重力)


(2) 運動方程式は

$\displaystyle m\frac{d^2 {\boldsymbol r}}{dt^2}=-mg {\boldsymbol e}_z$     (0)

そこで、 $ {\boldsymbol r}=x {\boldsymbol e}_x+y {\boldsymbol e}_y+z {\boldsymbol e}_z$ として、各成分で書くと
$\displaystyle \frac{d^2 x}{dt^2}=0\ \ ,\qquad
\frac{d^2 y}{dt^2}=0\ \ ,\qquad
\frac{d^2 z}{dt^2}=-g$     (0)

(3) $ x$ , $ y$ 方向は等速運動、$ z$ 方向は自由落下運動である。 積分は簡単に出来て

    $\displaystyle v_x=v_{x0}\ \ ,\qquad
v_y=v_{y0}\ \ ,\qquad
v_z=-gt+v_{z0}\ \ ,$  
    $\displaystyle x=v_{x0}t+x_0\ \ ,\qquad
y=v_{y0}t+y_0\ \ ,\qquad
z=-\frac{1}{2}gt^2+v_{z0}t+z_0$ (0)

と一般解が求まる。ここに、 $ v_{x0},~\cdots, z_0$ 等は 積分定数である。


(4) 初期条件として、$ t=0$$ x=y=z=0$ , $ v_x=v_0 \cos \theta$ , $ v_y=0$ , $ v_z=v_0 \sin \theta$ をとると、積分定数が決まり

    $\displaystyle v_x=v_0 \cos \theta\ \ ,\qquad
v_y=0\ \ ,\qquad
v_z=-gt+v_0 \sin \theta \ \ ,$  
    $\displaystyle x=(v_0 \cos \theta) t\ \ ,\qquad
y=0\ \ ,\qquad
z=-\frac{1}{2}gt^2+(v_0 \sin \theta)t$ (0)

と解が求まる。これを、 $ {\boldsymbol v}=-gt {\boldsymbol e}_z+{\boldsymbol v}_0$ , $ {\boldsymbol r}=-(1/2)gt^2 {\boldsymbol e}_z+{\boldsymbol v}_0 t$ とベクトルに まとめて書くと便利である。ここに $ {\boldsymbol v}_0=(v_0 \cos \theta){\boldsymbol e}_x
+(v_0 \sin \theta){\boldsymbol e}_z$ である。


運動の軌跡は、$ t$$ x$ の函数として表わし、それを $ z$ の式に 入れることにより

$\displaystyle z=-\frac{1}{2}\frac{g}{(v_0 \cos \theta)^2} x^2+x\,{\rm tan}\,\theta$     (0)

これは放物線である。最高点に達するまでの時間は $ v_z=0$ とする ことにより、 $ t=(v_0 \sin \theta)/g$ . これを、$ x$$ z$ の式に代入することにより、最高点の座標が求まる。 また、着地点までの距離は、$ z=0$$ t$ について解くことにより、 着地点までの時間が
$\displaystyle t_0=2 \frac{v_0 \sin \theta}{g}$     (0)

と求まるので、これを $ x$ の式に代入して
$\displaystyle x_0=(v_0 \cos \theta) t_0=\frac{{v_0}^2}{g}(\sin\,2\theta)$     (0)

と求まる。Eq. (4.6) の $ t_0$ は最高点に達するまでの時間の丁度 2 倍である。 特に、$ v_0$ =一定、の条件のもとに一番遠くまで玉を飛ばすことの 出来る角度は、 $ \sin 2\theta=1$ , つまり $ \theta=\pi/4=45^\circ$ の 角度で投げ上げた場合である。



(大気の抵抗を考慮した場合)


この時、最大の到達距離を得るためには、$ \theta$$ 45^\circ$ より 大きくすればよいか、あるいは小くすればよいかという問題を 考えてみる。経験によれば、一般に大気の抵抗力は速度に比例して その向きに逆の方向をもつ。これを、 $ {\boldsymbol F}=-\gamma m {\boldsymbol v}$ ($ \gamma >0$ は定数) とすると、Eq. (4.1) の運動方程式は

$\displaystyle m\frac{d^2 {\boldsymbol r}}{dt^2}=-mg {\boldsymbol e}_z-\gamma m {\boldsymbol v}$     (0)

と変更をうける。加速度を $ {\boldsymbol v}$ で書くと
$\displaystyle \frac{d {\boldsymbol v}}{dt}=-g {\boldsymbol e}_z-\gamma {\boldsymbol v}$     (0)

そこで、 $ {\boldsymbol v}=v_x {\boldsymbol e}_x+v_y {\boldsymbol e}_y+v_z {\boldsymbol e}_z$ として
$\displaystyle \frac{d v_x}{dt}=-\gamma v_x\ \ ,\qquad
\frac{d v_y}{dt}=-\gamma v_y\ \ ,\qquad
\frac{d v_z}{dt}=-g-\gamma v_z$     (0)

という 3 つの独立した微分方程式が得られる。まず $ x$ 方向の成分の解は $ (1/v_x)(d v_x/dt)=-\gamma$ として $ t$ で積分することにより、 $ C$ を積分定数として、 $ {\rm log}\,v_x=-\gamma+C$ である。 そこで $ e^C$ を新しく $ A$ とおくと $ v_x=A e^{-\gamma t}$ と 求まる。同様に、$ z$ 方向の積分は $ (d v_z/dt)=-\gamma (g/\gamma+v_z)$ $ (1/ (g/\gamma+v_z))(d v_z/dt)=-\gamma$ と書いて $ t$ で積分 することにより $ v_z=A^\prime e^{\gamma t}-g/\gamma$ である。ここに $ A^\prime$ は新しい積分定数である。結局、速度の一般解は
$\displaystyle v_x=A_x e^{-\gamma t}\ \ ,\qquad
v_y=A_y e^{-\gamma t}\ \ ,\qquad
v_z=A_z e^{-\gamma t}-\frac{g}{\gamma}$     (0)

ここに、積分定数 $ A_x$ , $ A_y$ , $ A_z$$ t=0$ $ v_x=A_x=v_0 \cos \theta$ , $ \cdots$ , $ v_z=A_z-g/\gamma=v_0 \sin \theta$ であることにより、 $ A_x=v_0 \cos \theta$ , $ A_y=0$ , $ A_z=g/\gamma+v_0 \sin \theta$ と求まる。結局、速度の解は
$\displaystyle v_x=e^{-\gamma t}(v_0 \cos \theta) \ \ ,\qquad
v_y=0\ \ ,\qquad
v_z=\left(\frac{g}{\gamma}+v_0 \sin \theta \right)
e^{-\gamma t}-\frac{g}{\gamma}$     (0)

これを、$ t$ でもう 1 度積分して
$\displaystyle x$ $\displaystyle =$ $\displaystyle -\frac{1}{\gamma} e^{-\gamma t}(v_0 \cos \theta)+C_x\ ,$  
$\displaystyle y$ $\displaystyle =$ $\displaystyle C_y$  
$\displaystyle z$ $\displaystyle =$ $\displaystyle -\left(\frac{g}{\gamma}+v_0 \sin \theta \right)\frac{1}{\gamma}
e^{-\gamma t}-\frac{g}{\gamma} t + C_z$ (0)

ここに、新しい積分定数 $ C_x$ , $ C_y$ , $ C_z$$ t=0$$ x=y=z=0$ であることから決まる。結局、最終的な解として
$\displaystyle x$ $\displaystyle =$ $\displaystyle (v_0 \cos \theta) \frac{1}{\gamma}
\left(1-e^{-\gamma t}\right)\ ,$  
$\displaystyle y$ $\displaystyle =$ 0  
$\displaystyle z$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \left(\frac{g}{\gamma}+v_0 \sin \theta \right)
\frac{1}{\gamma} \left(1-e^{-\gamma t}\right)-\frac{g}{\gamma} t$ (0)

が求まる。


運動の軌跡の式は、$ x$ の式から $ t$$ x$ で表して、これを $ z$ の 式に代入すれば求められるが、今の場合、あまり簡単な式にはならない。 それよりも重要なのは、 $ \gamma \rightarrow 0$ の極限で、以前の 空気抵抗の無い場合の式になるか、ということである。 これを見るために、指数函数 $ e^z$ の Taylor 展開

$\displaystyle e^z=1+\frac{1}{1!}z+\frac{1}{2!}z^2+\frac{1}{3!}z^3+\cdots$     (0)

を利用する。これを用いると $ e^{\gamma t}=1-\gamma t+(1/2)\gamma^2 t^2
-\cdots$ より、
$\displaystyle \frac{1}{\gamma}\left(1-e^{\gamma t}\right)
=t-\frac{1}{2}\gamma t^2+\cdots$     (0)

となるので、これを Eq. (4.14) に代入すると
$\displaystyle x$ $\displaystyle =$ $\displaystyle (v_0 \cos \theta) t \left(1-\frac{1}{2}\gamma t +\cdots\right)
\ ,$  
$\displaystyle y$ $\displaystyle =$ 0  
$\displaystyle z$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \left(\frac{g}{\gamma}+v_0 \sin \theta \right)
\left(t-\frac{1}{2}\gamma t^2+\cdots \right)-\frac{g}{\gamma}t$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle -\frac{1}{2} g t^2+(v_0 \sin \theta) t + O(\gamma)$ (0)

となり、 $ \gamma \rightarrow 0$ の時 Eq. (4.4) に帰着する。 Eq. (4.17) で、$ O(\gamma)$$ \gamma$ の 1 次の order の微少量で あることを示す。 また、 $ t \rightarrow \infty$ の極限で Eq. (4.12) は
$\displaystyle v_x$ $\displaystyle \rightarrow$ $\displaystyle 0\ ,$  
$\displaystyle v_z$ $\displaystyle \rightarrow$ $\displaystyle -\frac{g}{\gamma}$ (0)

となる。ここで、最後の $ -g/\gamma$ は、もとの式 Eq. (4.10) で $ d v_z/dt=a_z \rightarrow 0$ となった時の極限の速度に対応しており、 これを空気抵抗のある時の''終端速度''と呼んでいる。 また、 $ t \rightarrow \infty$ の時 Eq. (4.14) から
$\displaystyle x$ $\displaystyle \rightarrow$ $\displaystyle \frac{v_0 \cos \theta}{g}\ ,$  
$\displaystyle z$ $\displaystyle \rightarrow$ $\displaystyle -\frac{g}{\gamma}t$ (0)

であることにより、 $ x=(v_0 \cos \theta)/g$$ x$ -$ z$ 平面上での 軌跡の漸近線であることがわかる。


今度は、反対の極限として $ \gamma$ が十分大きい時を考える。 Eq. (4.10) からすぐ分かるように、$ \gamma$ は [1/s] の次元を もっているので、いま考えている問題に特徴的な時間 $ t_0$ を 考えて、 $ \gamma t_0 \gg 1$ の場合を考えることになる。 $ t_0$ として、ここでは玉が再び地表に達するまでの時間、 すなわち $ x$ -$ y$ 平面 ($ z=0$ 平面) への到達時間を考えることにする。 この時、Eq. (4.14) で $ e^{-\gamma t_0}$ を無視すると

$\displaystyle x_0$ $\displaystyle \sim$ $\displaystyle \frac{v_0 \cos \theta}{\gamma} \ ,$  
$\displaystyle \left(\frac{g}{\gamma}+v_0 \sin \theta \right)\frac{1}{\gamma}$ $\displaystyle \sim$ $\displaystyle \frac{g}{\gamma} t_0$ (0)

となる。ここに、$ x_0$$ x$ -$ y$ 平面での到達距離である。下の式より
$\displaystyle t_0 \sim \frac{1}{\gamma}\left(1+\gamma \frac{v_0}{g}\sin \theta \right)$     (0)

が得られるので、これを
$\displaystyle \gamma t_0 \sim 1+\gamma \frac{v_0}{g}\sin \theta \gg 1$     (0)

と書くと、今考えている条件 $ \gamma t_0 \gg 1$ より、 Eq. (4.22) の右辺の 1 はその後の $ \gamma (v_0/g)\sin \theta$ に 比べて無視できることがわかる。そこで $ t_0 \sim (v_0/g)\sin \theta$ . これは、大気の抵抗が無い場合の式 Eq. (4.6) と同じ order の時間である。 Eq. (4.20) の上の式からは、到達距離 $ x_0$$ \theta$ が 小さい方が有利であることがわかる。しかし、 $ 1/\gamma \ll t_0$ を 用いると、$ x_0$
$\displaystyle x_0 \ll (v_0 \cos \theta) t_0=\frac{{v_0}^2}{g}\sin \theta \cos \theta
=\frac{{v_0}^2}{2g} (\sin 2\theta)$     (0)

より、抵抗がない場合よりも常に小さいことがわかる。 実際は、$ \gamma$ はかなり大きい。 仮に、$ v_0=120$ km/s とすると、 $ v_0=120\times 10^3/(60 \times 60)
~\hbox{ m/s} \sim 30~\hbox{m/s}$ だから、 $ {v_0}^2/g \sim (30~\hbox{m/s})^2/(9.8~\hbox{m}/\hbox{s}^2)
\sim 100~\hbox{m}$ . そこで、 $ t_0 \sim (v_0/g) \sin \theta \sim (30~\hbox{m/s})/(9.8~\hbox{m}/\hbox{s}^2)
\sim 3~\hbox{s}$ . ここに、 $ \sin \theta \sim 1$ とした。 そこで、もし $ \gamma \gg 1/t_0$ なら、 $ \gamma \gg 0.3~/\hbox{s}$ となる。 $ x_0$$ \theta=0$ の時最大だが、 $ \gamma t_0 \gg 1$ を満すためには ある程度の角度は必要である。以上より、大気の抵抗がある場合に 一定の初速度のもとに最大の到達距離を得るためには、$ \theta$$ 45^\circ$ より は小くとる方がよいことが予想される。




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基本的例題(II) 物理学基礎論 A 運動の法則

Yoshikazu Fujiwara 平成19年5月16日