はじめに

人類が無限と言う怪物を正しく制御できるようになったのは今から高々200-300年位前のことで、非常に最近のことである。高木貞治先生の名著「解析概論」の種本となったと思われる Whittaker-Watson の 「Course d'Aanalysis (A Course of Modern Analysis)」にも、著名な天才数字者のオイラー (L. Euler)が級数の収束半径を無視して無意味な結果を得たことが書かれている (本文 (練習問題-3) 参照) が、このような結果は YouTube 等のウェブに溢れている。そのほとんどが、無限を正確に扱わないで厳密性を欠く推論をした結果によるものである。日本の大学では理科系の学部の学生は全て初年度に「微分・積分」と「線形代数」を勉強することを義務付けており、 \(\delta \hbox{-} \varepsilon\) 論法等をみっちり叩き込まれるが、それでそれまで好きだった数学が嫌になったと言う人も多くいるであろう。しかし、こうした数学的厳密性がその後勉強する「位相数学 (topology)」への入り口であることは間違いない。これを高等学校の2年・3年の生徒に要求するのは無謀だと思われるので、ここでは出来るだけ通常の学校教育の枠を超えない範囲内で、多分に直感に頼る議論でもって、基本的な微分積分学の考え方とその多少の応用を紹介することにする。大学での一般教養課程数学への入門となれば幸いである。

ここに解析分野に限らず数学一般において使われる論理式と論理記号、および簡単な集合論の基本を説明しておく。 一般に「A ならば B」と言う文章がある時、これを「命題」と言って A → B や ≪ A → B ≫ と書く。A や B は、再び命題である場合もあるし、単なる文章である場合もある。より広い意味で単なる文章 A、B を命題と言うこともある。A の「否定」を、上にバーを引いて \(\overline{\hbox{A}}\) と書く。例えば「雨が降る日は天気が悪い」、あるいは「雨が降れば天気が悪い」と言う命題では、「雨が降る」が A であり「天気が悪い」が B である。つまり A=「雨が降る」の時、A の否定は \(\overline{\hbox{A}}\)=「雨が降らない」であり、B=「天気が悪い」の否定は \(\overline{\hbox{B}}\)=「天気が良い」である。命題は正しい時もあるし、間違ってる時もある。今の場合この命題は正しいが、その「逆」の命題「天気が悪ければ雨が降る」は間違いである。なぜならば、一日中曇っている日の場合もあるからである。しかしながらこの命題の「対偶」、「天気が悪くなければ雨が降らない」は正しい。対偶は日常生活ではあまり使われない言葉であるが、数学では厳密に命題 ≪ A → B ≫ に対して命題 ≪ \(\overline{\hbox{B}}\) → \(\overline{\hbox{A}}\) ≫ を「対偶」と言う。対偶は (元の命題が正しいかどうかにかかわらず)、常に “正しい“。 このことを、「逆必ずしも真ならず、しかし対偶は常に正しい」と言う。(あとで説明する「同値」という言葉を用いれば、もとの命題とその対偶は同値ということである。) また、一般には、命題 ≪ A → B ≫ で A は条件 ( あるいは仮定) B は結論 (あるいは結果) であるが、数学ではこの命題が正しい時に限りA を十分条件、B を必要条件と言う。「A ならば十分 B である、A ならば B である必要がある」という意味である。命題が正しくない時は、十分条件でも必要条件でもない。このことは注意するに値する。

物の集まりを集合といい、その構成要素を要素とか元とか言う。例えば、\(x\) を実数とする時、実数全体の集合を \(\boldsymbol{R}\) と書き論理記号で \(x \in \boldsymbol{R}\) と表わす。元 \(x\) は集合 \(\boldsymbol{R}\) に含まれるとか、集合 \(\boldsymbol{R}\) は元 \(x\) を含むとか言う。元を全く含まない集合を空集合と言い \(\emptyset\) で表わす。二つの集合 \(A\) と \(B\) の元を合わせた集合を \(A\) と \(B\) の合併集合と言い \(A∪B\) で表わす。この時、共通に含まれる元は1つだけと考える。また、\(A\) と \(B\) に共通に現れる元を集めたものを \(A\) と \(B\) の積集合 (または \(A\) と \(B\) の共通部分と言い、\(A∩B\) と書く。集合記号で書くと

\[ A∪B=\{x|x\in A \ \hbox{or} \ x\in B\} \\ A∩B=\{x|x\in A \ \hbox{and} \ x\in B\} \]

である。集合 \(A\) の元が全て集合 \(C\) に含まれる時、すなわち ≪ \(a\in C \ \hbox{for} \ \hbox{}^\forall a\in A \) ≫ の時、\(A\) は \(C\) の「部分集合」であると言って \(C⊃A\) あるいは \(A⊂C\) で表わす。ここに、\(\hbox{}^\forall\) は「全ての ... に対して」を表わす論理記号である。また以下では「... が存在する (there exists ...)」を表わす、\(\hbox{}^\exists\) も使う。 \(A\) と \(B\) に共通部分のない時、すなわち \(A∩B=\emptyset\) の時 \(A∪B\) を \(A∪B=A+B\) と書いて集合 \(A\) と \(B\) の (直)和集合と言う。集合を議論する時、その集合を含む全体集合が何かを常に意識しておく必要がある。例えば、自然数全体の集合を \(\boldsymbol{N}\) と書く時、偶数の集合は \(E=\{n\in \boldsymbol{N} | n=\hbox{even}\}\) と表わされる。同様に奇数全体の集合は \(O=\{n\in \boldsymbol{N} | n=\hbox{odd}\}\) である。そこで、 \(\boldsymbol{N}=E+O\) が成り立つ。集合 \(A\) の全体集合を \(C\) とする時、 \(A\) 以外の \(C\) の元からなる集合を \(A\) の \(C\) に対する「補集合」と言って \(A^c\) で表わす。右肩の \(c\) は complement の略語である。\(C\) から \(A\) の元を除いた集合を \(C\backslash A\) とも表わすので、\(A^c=C\backslash A\) である。

命題と集合には簡単な一種の対応関係が存在する。例えば、正しい命題 ≪ p → q ≫ がある時、命題 p の満たされる集合を \(A\)、命題 q の満たされる集合を \( B\) として \(B⊃A\) が成り立つ。今 \(n\) を自然数として p が \(n>5\)、q が \(n>3\) なら命題 ≪ p → q ≫ は正しいが、このことは \( A=\{n\in \boldsymbol{N} | n > 5\}\)、\(B=\{n\in \boldsymbol{N} | n > 3\}\) として \(B⊃A\) である事を意味する。≪ p → q ≫ が \(A⊂B\) に対応するなら、その対偶 ≪ \(\overline{\hbox{q}} → \overline{\hbox{p}}\) ≫ は \(B^c⊂A^c\) に対応する。

最後に同値関係と大小関係について簡単に説明する。ある集合 \(S\) において、その任意の二つの元 \(a, b\) (同じでも良い) に対して次の三つの性質をもつ関係 (「同値関係 (equivalence relation)」という) がある時、それを \( a \sim b\) とか \(a \equiv b\) と書いて \(a\) と \(b\) は同値 (equivalent) であると言う。

(i) 反射律: \(a \sim a\)

(ii) 対称律: \(a \sim b\) なら \(b \sim a\)

(iii) 推移律: \(a \sim b\) かつ \(b \sim c\) ならば \(a \sim c\)

同値関係によって集合は「同値類」に類別される。

例えば、整数全体の集合 \(\boldsymbol{Z}\) で二つの元 \(a, b \in \boldsymbol{Z}\) をある自然数 \(n\in \boldsymbol{N}\) で割った時の余り \(r=0, 1, ... ,n-1\) が等しい時 \(a \equiv b\ (\hbox{mod}\ n)\) と書いて合同式という。 \(a\) と \(b\) は 法 (ノリ: modulo) \(n\) として合同であるという。\(\equiv\) は同値関係である。

\[ Z_0=\{a\in \boldsymbol{Z}|a\equiv 0 \ (\hbox{mod} \ n) \} \\ Z_1=\{a\in \boldsymbol{Z}|a\equiv 1 \ (\hbox{mod} \ n) \} \\ Z_2=\{a\in \boldsymbol{Z}|a\equiv 2 (\ \hbox{mod} \ n) \} \\ ... \\ Z_{n-1}=\{a\in \boldsymbol{Z}|a\equiv n-1 \ (\hbox{mod} \ n) \} \]

は余り \(0, 1, 2, ... ,n-1\) の同値類であり

\[ \boldsymbol{Z}=Z_0+Z_1+Z_2+... +Z_{n-1} \] である。\(Z_0\) の 0、\(Z_1\) の 1、... 等を同値類の代表元という。

また別の例として、図形の合同、相似は同値関係である。等号 \(=\) も同値関係である。すなわち

(i) 反射律: \(a = a\)

(ii) 対称律: \(a = b\) なら \(b = a\)

(iii) 推移律: \(a = b\) かつ \(b = c\) ならば \(a = c\)

が成り立つ。

同値関係ではないが、それに類似の関係として大小関係がある。任意の2つの元 \(a, b\) に対して大小関係がつけられた集合を全順序集合と言う。大小関係は \(a < b, a = b, a > b\) のうちどれかである。\(a < b \quad \hbox{or} \quad a = b\) を \(a ≦ b\)、 \(a > b \quad \hbox{or} \quad a = b\) を \(a ≧ b\) と書く。\(a\) は \(b\) より大きいという場合、普通は \(a ≧ b\) のことを意味する。等号を含まない時は「真に」大と言ったり、また含む時は強調して「等しいかより大きい」ということもある。試験の成績で60 点以上合格という場合、60 点でも大丈夫である。ダメな場合には、60 点を除いてそれ以上といちいちことわる。また、100 円ショップとは普通、全ての商品が100 円以下ということであって 100 円を含んでいる。100 円を含まない場合は、100 円未満という。自然数や整数、有理数や実数はいずれも全順序集合である。ただし、複素数は順序集合ではない。実数全体の集合 \(\boldsymbol{R}\) を \((-\infty, \infty)\) と書くとき、\(a, b\in (-\infty, \infty)\) に対して区間集合を次の様に定義する。

\[ (a, b)=\{x\in (-\infty, \infty)| a < x < b\} \\ [a, b)=\{x\in (-\infty, \infty)| a ≦ x < b\} \\ (a, b]=\{x\in (-\infty, \infty)| a < x ≦ b\} \\ [a, b]=\{x\in (-\infty, \infty)| a ≦ x ≦ b\} \]

\((a, b)\) を開区間、\([a, b]\) を閉区間と言う。\(\pm \infty\) に対しては、丸いカッコだけが可能である。


数列とその極限

実数でも複素数でも良いが、一般に数がある規則に従って並んだものを数列という。以下では、曖昧さを避けるため一応実数だけを考える。例えば

\[ 1, 2, 3, 4, 5, ... \tag{1-1a} \] \[ \frac{1}{1^2}, \frac{1}{2^2}, \frac{1}{3^2}, \frac{1}{4^2}, ... \tag{1-1b} \] \[ \frac{1}{1!}, \frac{1}{2!}, \frac{1}{3!}, \frac{1}{4!}, ... \tag{1-1c} \] \[ ... \]

これらを

\[ a_1, a_2, a_3, ... \tag{1-2} \]

あるいは \(\{a_n\}\ (n=1, 2, 3, ...)\) と書く。上の例では

\[ a_n=n \tag{1-3a} \] \[ a_n=\frac{1}{n^2} \tag{1-3b} \] \[ a_n=\frac{1}{n!} \tag{1-3c} \]

等である。ここで \(n → \infty\) とすると、(1-1a) は益々大きくなって \(\infty\) に、(1-1b) と (1-1c) は限りなく 0 に近づく。これを

\[ \lim_{n→\infty} n =\infty \tag{1-4a} \] \[ \lim_{n→\infty} \frac{1}{n^2} = 0 \tag{1-4b} \] \[ \lim_{n→\infty} \frac{1}{n!} = 0 \tag{1-4c} \]

等と書く。もっと一般的には、\(a\) を有限確定として

\[ a_1, a_2, a_3, ... , a_n, ... → a \quad \hbox{for} \quad n → \infty \tag{1-5} \]

を、数列 \(\{a_n\}\) は \(a\) に収束すると言って

\[ \lim_{n→\infty} a_n = a \tag{1-6} \]

と書く。条件 \(n→\infty\) は \(h→0\) 等、連続値であっても良い。

(1-6) の正確な定義は、「任意の \(\varepsilon > 0\) に対して或る自然数 \(N\) があって、全ての \(n > N\) に対して \(|a_n-a| < \varepsilon\) が成り立つ。」というものである。英語では、"For any arbitrary \(\varepsilon > 0\), there exists a natural number \(N\) such that \(|a_n-a| < \varepsilon\) is satisfied for all \(n > N\)." 論理記号を用いれば

\[ \hbox{}^\forall \varepsilon \ \hbox{に対して} \ \hbox{}^\exists N\ \hbox{があって} \\ \ll |a_n-a| < \varepsilon \quad \hbox{for} \quad \hbox{}^\forall n > N \gg \hbox{が成り立つ} \tag{1-7} \]

と表わされる。(日本語部分は省略しても良い。) (1-4a) では、そもそもこの様な有限確定値 \(a\) を見出し得ない。(1-4b) では \(N > \frac{1}{\sqrt{\varepsilon}}\)、(1-4c) では \(N > \frac{1}{\varepsilon}\) ととれば良い。実際、この時 \(\frac{1}{n^2} < \varepsilon\) や \( \frac{1}{n!} < \frac{1}{n} < \varepsilon\) が示せる。 (1-7) では、暗黙のうちに \(\varepsilon\) は微少量、\(N\) は大きな数であることを想定している。

(1-7) で、\(\hbox{}^\forall n > N\) を省略して

\[ \hbox{}^\forall \varepsilon \quad \hbox{}^\exists N \quad \ll |a_N-a| < \varepsilon \gg \]

が不十分なことは注意に値する。なぜなら、\(\hbox{}^\exists n > N\) の中にいくらでも \( \ll |a_n-a| ≧ \varepsilon \gg \) となるものが存在し得るからである。

二つの無限数列がそれぞれ収束する時、それらの和差や積、商は (意味がある限り) 全て収束する。つまり、\(\lim_{n→\infty} a_n = a\ ,\ \lim_{n→\infty} b_n = b\) の時

\[ \lim_{n→\infty} (a_n \pm b_n) = a \pm b \\ \lim_{n→\infty} (a_n b_n) = ab \\ \lim_{n→\infty} \frac{a_n}{b_n} = \frac{a}{b} \tag{1-8} \]

ここに、最後の式で \(b_n, b \neq 0\) とする。

(練習問題-1) 実数 \(a\in (-\infty, \infty)\) に対して次のことを示せ。

\[ \lim_{n→\infty} \frac{|a|^n}{n!} = 0 \\ \lim_{n→\infty} |a|^n = \infty \quad \hbox{for} \quad |a| > 1 \\ \lim_{n→\infty} |a|^n = 0 \quad \hbox{for} \quad |a| < 1 \]


実数の連続性

既に「数(かず) について」のところで述べた様に、「実数=数直線」という直観的定義は解析学の出発点としては不十分である。実数の本質は、1870 年代にドイツの数学者デデキントによる「デデキント切断」とよばれるものにより明らかにされた。「デデキント切断」とは、簡単に言えば実数全体の集合 \(\boldsymbol{R}\) を大小関係 \(a < b\)により空でない二つの集合 \(a \in A\) と \(b \in B\) に分けた時に次の二つのどちらかが成り立つ事である。

1. \(A\) に最大値があって、\(B\) に最小値がない。

2. \(A\) に最大値がなく、\(B\) に最小値がある。

すなわち、\(\boldsymbol{R}=(-\infty, \infty)\) として 実数 \(c \in (-\infty, \infty)\) に対して \(A \cup B = \boldsymbol{R}, A \cap B = \emptyset, A \neq \emptyset, B \neq \emptyset\) という分け方が

1. \( (-\infty, c] \) と \( (c, \infty)\)

2. \( (-\infty, c) \) と \( [c, \infty)\)

のどちらかであることを意味する。これはほとんど当然に見えるが、問題はこの逆が成り立つ事である。すなわち

\[ A \cap B = \boldsymbol{R}, A \cap B = \emptyset, A \neq \emptyset, B \neq \emptyset\\ a < b \quad \hbox{for} \quad \hbox{}^\forall a \in A \quad \hbox{and} \quad \hbox{for} \quad \hbox{}^\forall b \in B \tag{2-1} \]

の時、これを「デデキントの切断」と言って実数 \(c \in \boldsymbol{R}\) の定義とする。\(c\) は \(A\) か \(B\) のどちらかに属する。

一般に、全順序集合 \(S\) にデデキントの切断を導入して下部分集合 \(A\) と上部分集合 \(B\) とする時、次の三つの場合が可能である。

(1) \(A\) に最大値、\(B\) に最小値が存在する。すなわち、\(A\) と \(B\) の間に飛び (leap) がある。

(2) \(A\) には最大値がなく、\(B\) にも最小値がない。すなわち、\(A\) と \(B\) の間に間隔、隙間 (gap) がある。

(3) \(A\) に最大値があるか、\(B\) に最小値があるかどちらかである。すなわち、 \(A\) と \(B\) は連続している。

(1) は整数全体の集合 \(\boldsymbol{Z}\) の場合、(2) は有理数全体の集合 \(\boldsymbol{Q}\) の場合である。二つの異なった有理数の間には、無数に有理数があるから、この場合には (1) ではあり得ない。また、例えば \(\boldsymbol{Q}\) を無理数 \(\sqrt{3}\) で大小に分けると \(\sqrt{3}\) の幾らでも近くに限りなく有理数が存在し、かつそれらの有理数の間には有理数の個数よりも高位の無限大の個数の無理数が存在する。\(S\) が実数全体の集合 \(\boldsymbol{R}\) の場合には、(1)、(2) ではあり得ず (3) だけが可能である。これを「実数の連続性」という。

実数の連続性には、デデキントの切断以外にも数多くの全く同値な定義がある。以下では、その中から幾つかを紹介する。まず、有界数列の上限、下限について述べる。ある実数の部分集合 \(S ⊂ \boldsymbol{R}\) に対して、その全ての元より、大きいか等しい実数 \(c\) が存在する時、その数列は上に有界といい \(c\) を上界という。論理記号を使って書けば

\[ \hbox{}^\exists c\in \boldsymbol{R} \quad \hbox{such that} \quad c ≧ \hbox{}^\forall a\in S \]

上界が一つあれば、それより大きい実数は全て上界である。上界全体の集合を \(B\) としその実数全体に対する補集合を \(A\) とする。つまり

\[ B=\{c\in \boldsymbol{R}|c ≧ \hbox{}^\forall a\in S \} \\ A=\boldsymbol{R}\backslash B \]

\(A\) の元は \(S\) の上界ではないのだから、ある \(a\in S\) があつて \(A\) の元は \(a\) より(真に) 小さい。その様な元は必ず一つ以上存在するから \(A\) は空集合ではない。そこで、\(A, B\) は一つのデデキントの切断を与える。それを実数 \(c\) とすると、\(c\) は \(A\) の最大値か \(B\) の最小値かのどちらかである。しかしながら、\(c\) は \(A\) の最大値ではあり得ない。何故なら、もしそうであるとすると \(c\) は \(S\) の上界ではないから、ある \(a\in S\) が存在して\(c < a\) が成り立つ。そこで、\(c < a' < a\) となる \(a'\) が必ず存在する。例えば、\(a' = \frac{c+a}{2}\) と取れば良い。\(c\) は集合 \(A\) の最大値だから \(c < a'\) より集合 \(B\) の元であるが、一方 \(a' < a\in S\) より \(S\) の上界ではあり得ない。つまり \(a'\in A\) であり、\(a'\) が \(A\) と \(B\) の双方に属することになって \(A∩B=\emptyset\) という仮定に反する。従って、\(c\) は\(A\) の最大値ではあり得ず \(B\) の最小値である。この \(c\) を集合 \(S\) の上限 (superior) といい \(c=\sup S\) と書く。すなわち、上限とは最小上界である。結局「上に有界な実数の部分集合には上限が存在する。」同様に「下に有界な実数の部分集合には下限が存在する。」下限 (inferior) の記号は \(\inf S\) である。これらの正確な定義は

\[ c=\sup S \quad \Longleftrightarrow \\ (1) \quad c ≧ \hbox{}^\forall a\in S \\ (2) \quad \hbox{}^\forall \varepsilon \quad \hbox{}^\exists a\in S \ll c-\varepsilon < a \gg \tag{2-2a} \]

\[ c=\inf S \quad \Longleftrightarrow \\ (1) \quad c ≦ \hbox{}^\forall a\in S \\ (2) \quad \hbox{}^\forall \varepsilon \quad \hbox{}^\exists a\in S \ll c+\varepsilon > a \gg \tag{2-2b} \]

上にも下にも有界な集合を有界集合と言う。有界集合には上限と下限が存在する。

次に、「有界な単調増大列は収束する」という大変重要な命題を証明する。実数の無限数列 \(\{a_n\}\) が

\[ a_1 < a_2 < a_3 < ... < a_n < ... \tag{2-3} \]

を満たす時、これを単調増大列という。単調増大数列 \(S\) が有界の時、(2-2a) の上限 \(c=\sup S\) が存在する。この場合、(2-2a) の (2) は

\[ \hbox{}^\forall \varepsilon \quad \hbox{}^\exists N \ll c-\varepsilon < a_n \quad \hbox{}^\forall n > N \gg \tag{2-4} \]

となる。ここで、≪ ... ≫ の部分の不等号は \( c-a_n < \varepsilon\) と同じだから (2-2a) の (1) とあわせて \( 0 ≦ c-a_n < \varepsilon\) となる。そこで \( |c-a_n| < \varepsilon\) より(2-4) は

\[ \hbox{}^\forall \varepsilon \quad \hbox{}^\exists N \ll |c-a_n| < \varepsilon \quad \hbox{}^\forall n > N \gg \tag{2-5} \]

となる。これは (1-7) そのものであり、\(\lim_{n→\infty} a_n = c\) を表わす。この証明からほぼ明らかの様に、この命題は (2-3) の不等号記号 < が ≦ であっても成り立つ。また同様に「有界な単調減少列も収束する」。この場合は、収束値として \(c=\inf S\) を取れば良い。

次に、区間縮小法について述べる。「幾何」のアルキメデスによる正多角形による π の近似計算のところで既に述べた様に、今無限数列

\[ a_1 ≦ a_2 ≦ a_3 ≦ ... ≦ a_n ≦ ... \\ ≦ b_n ≦ ... ≦ b_3 ≦ b_2 ≦ b_1 \tag{2-6} \]

がある時、\(|a_n-b_n| → 0 \quad \hbox{for} \quad n → \infty\) であればただ一つ実数値 \(c\) が決まって

\[ c = \lim_{n→\infty} a_n = \lim_{n→\infty} b_n \tag{2-7} \]

が成り立つ。

実際、 \(\{a_n\}, \{b_n\}\) はいずれも有界単調列だから、それぞれ実数

\[ a = \lim_{n→\infty} a_n \quad , \quad b = \lim_{n→\infty} b_n \]

が存在する。ここで、\(a ≦ b\) であって \(a > b\) ではあり得ない。なぜなら、 \(a\) は \(\{a_n\}\) の最小上界であるから

\[ a ≦ ... b_n ≦ ... ≦ b_3 ≦ b_2 ≦ b_1 \]

また、\(b\) は \(\{b_n\}\) の最大下界だから

\[ \hbox{}^\forall \varepsilon > 0, \hbox{}^\exists n \quad \ll b+\varepsilon > b_n \gg \]

そこで \(a < b+\varepsilon\) が成り立つ。ここで \(\varepsilon\) は任意に小さく出来るから、\(a ≦ b\) が成り立つ。そこで

\[ a_1 ≦ a_2 ≦ a_3 ≦ ... ≦ a_n ≦ ... ≦ a \\ ≦ b ≦ ...≦ b_n ≦ ... ≦ b_3 ≦ b_2 ≦ b_1 \tag{2-8} \]

ここで \(|a_n-b_n| → 0 \quad \hbox{for} \quad n → \infty\) であれば \(a < b\) ではあり得ず、 \(a = b = c\) つまり (2-7) が成り立つ。

以上の議論は、閉区間 \(I_n=[a_n, b_n]\) を使っても次の様に表わされる。閉区間 \(I=[a, b]\) の長さを \(|I|=b-a\) で定義する。 \(a=b\) の時の長さ 0 の閉区間 \(I=[a, a]\) は \(a\) だけからなる集合 {\(a\)} である。今、集合列 \( I_1⊃I_2⊃I_3⊃ ... ⊃I_n⊃ ... \) があって \( |I_n| →0 \quad \hbox{for} \quad n→\infty \) であるとする。\(\lim_{n→\infty} I_n = \{a\}\) なる実数 \(a\) は、全ての閉区間 \(I_n\) に含まれる。

この様な記述は、この命題がデデキントの切断による実数の定義との同等性を示すのに便利である。まずデデキントの切断 (2-1) があったとして、\(A\) と \(B\) から \(a_1\) と \(b_1\) を取り \(I_1=[a_1, b_1]\) とする。次に \(\frac{a_1+b_1}{2}\) を作ると、これは \(A\) か \(B\) かどちらかに属する。もし \(A\) に属するなら \(a_2=\frac{a_1+b_1}{2}, b_2=b_1\)、\(B\) に属するなら \(a_2=a_1, b_2=\frac{a_1+b_1}{2}\) とする。\(I_2=[a_2, b_2]\) として、 \(I_1⊃I_2\) かつ \( |I_2|=\frac{|a_1-b_1|}{2}=\frac{1}{2}|I_1| \) が成り立つ。この過程を繰り返して、\( I_1⊃I_2⊃I_3⊃ ... ⊃I_n⊃ ... \) かつ \( |I_n|=\frac{1}{2^{n-1}}|I_1| → 0 \quad \hbox{for} \quad n→\infty \) が得られる。この極限操作により実数 \(a\) が存在すると仮定すると、\(a\) は \(A\) に属する最大値か \(B\) に属する最小値かのどちらかである。実際、\(I_n=[a_n, b_n]\) は \(a_n\in A, b_n\in B\) より\(A, B\) にまたがっているが \(a\in A∪B\) より \(a\) は \(A\) か \(B\) のどちらかに属する。もし \(A\) に属するなら、それは \(A\) の最大値である。実際、最大値でなければ \(a < a_n\) なる \(A\) の元 \(a_n\) が存在するが、それは \(a\) が単調増大列 \(\{a_n\}\) の極限であることに反するからである。同様にして、もし \(a\) が \(B\) に属するとすると、それは \(B\) の最小値である。\(A\) の最大値であり、かつ \(B\) の最小値であることは許されない。なぜなら、それは \(a\) が \(A\) と \(B\) の双方に属することになり \(A∩B=\emptyset\) ということに矛盾するからである。すなわち、この切断がはじめに述べた (3) のタイプであることを示している。

上で、実数の連続性を表わす4つの命題が全て同値であることを示したが、もう一つ同値で重要な命題がある。それは「集積点」に関するものである。一般に平面上の点がその任意の近傍に無限個の点列を持つ時、その点を集積点という。今簡単のため一次元の集合だけを考えると、上の区間縮小法によって決まる極限点は集積点である。実数の連続性の一つの表現として、次の Bolzano-Weierstrass の定理が成り立つ。

「有界閉区間に含まれる無限列は一つ以上集積点をもつ。」

ここに、有界閉区間 \(I=[a, b]\) に含まれる無限点列 \(a_1, a_2, a_3, ... \in I\) は同じものが無限個現れるだけのものは考えないものとする。\(c=\frac{a+b}{2}\) として \([a, b]\) を \([a, c]\) と \([c, b]\) と二等分すると、どちらかの閉区間が無限点列 (部分無限点列) を含む。これを \(I_2\) としてもとの \(I\) を \(I_1\) とすると \(I_1⊃I_2\) であり、長さは元の半分である。この操作を繰り返すと、全て元の無限点列の部分無限点列を含む閉区間集合の無限列 \(I_1⊃I_2⊃I_3⊃ ... \) があって、その極限 \(x\) がただ一つ求まる。\(x\) は全ての \(I_n\) に含まれるから、 \(x\) は集積点であり、かつ元の有限閉集合に含まれる。

収束数列の極限は、必ずそれに収束する部分列を持つから集積点である。また逆に、集積点が有ればそれが極限点となる様な収束数列を作ることが出来る。例えば、ある任意の実数 \(x\) がある時、有理数 \(a, b\) で \(a < x < b\) なるものを取って \(x\in [a, b]\) と出来る。\(c=\frac{a+b}{2}\) は再び有理数で、\([a, b]⊂[a, c]∪[c, b]\) より \(x\in [a, c]\) か \(x\in [c, b]\) のどちらかである。\(x\) が含まれる方の区間をとって同じプロセスを繰り返せば、有理数の閉区間列で全てが \(x\) を含み \(x\) に収束するものが得られる。すなわち、実数は有理数列の集積点であり、必ずそれに収束する有理数の単調増大級数と単調減少級数を見出すことが出来る。これと (1-8) を使うと、実数の加減乗除を有理数の加減乗除から導くことが出来る。二つの有理数の間には無数の無理数があるように、2つの異なる実数の間には無限個の有理数が存在する。これを、有理数は実数の中で「稠密 (dense) 」に分布していると言う。

(指数関数)

既に「数について」の項で述べた様に、実数 \(a\in \boldsymbol{R}\) の有限個の積 \(a^n =a\cdot a\cdot ... \cdot a)\quad (n\in \boldsymbol{N}) \) (\(a\) の \(n\) 乗という) には、いわゆる「指数法則」が成り立つ。

\[ a^n\ a^m = a^{(n+m)} \\ (a^n)^m = a^{nm} \tag{2-9} \]

ここに、\(n, m \in \boldsymbol{N}\) は自然数である。一般には \(a\) は何でも良いが、特に \(a > 0\) の時 \(a^n\) の \(n\) を実数 \(x\in \boldsymbol{R}\) にまで拡張して \(a^x\) としたものを (実数変数の) 「指数関数」という。この定義には、実数の連続性が基本となっている。まず、\(n=1\) の時は定義から \(a^1=a\) である。次に \(n\) が 0 や負の整数の時は、(2-9) が整数の範囲内で (2-9) が成り立つ様に規則を決める。まず (2-9) の上の式で \(m=0\) とおいて、\(a^n\ a^0 = a^n\) だが、もし \(a \neq 0\) なら \(a^n \neq 0\) より、これで割って \(a^0=1\) である。また、 \(m→-n\) として \(a^n\ a^(-n)\) = a^0 = 1 \ \hbox{for}\ a \neq 0\) より

\[ a^{-n} = \frac{1}{a^n} \quad \hbox{for} \quad a \neq 0 \tag{2-10} \]

\(a > 1\) の時、\(a^{n+1} = a^n a > a^n\) より \(a^0=1, a^1=a, a^2, a^3, ... \) は \(n\) の単調増大数列である。また (2-10) より\(a^{-n}\) で \(0 < ... < a^{-3} < a^{-2} < a^{-1} < a^0 = 1\) だから、整数 \(n\in \boldsymbol{Z}\) に対して \( a^n > 0\) は単調増大数列である。\(0 < a < 1\) の時はその逆数で、単調減少数列である。次に \(a > b > 0\) の時、自然数 \(n\in \boldsymbol{N}\) に対して \( a^n > b^n > 0\) が成り立つ。これは、公式

\[ a^n-b^n=(a-b)(a^{n-1}+a^{n-2}b+ ... +b^{n-1}) \tag{2-11} \] より明らかである。負の整数に対しては、\(0 < a^{-n} < b^{-n}\) が成り立つ。

\(a > 0\) の時、\(a\) の \(n\)- 乗根は \(n\)- 乗して \(a\) になる「正の」実数である。これを \(a^{\frac{1}{n}}\) とか \(\sqrt[n]{a}\) とか書く。「正の」と断ったわけは、「代数」の項で見た様に \(x^n=a > 0\) の解は実数の範囲では、\(n\) が偶数の場合は正と負の両方の解があるからである。特に \(a^{\frac{1}{n}}\) という書き方は、(2-9) で \(n→\frac{1}{n}, m→n\) とした時の規則に合致する。

\[ \left(a^{\frac{1}{n}}\right)^n = a^1 = a \tag{2-12} \]

ここから \(a > 1\) の時は \(a^{\frac{1}{n}} > 1\)、\(a < 1\) の時は \(a^{\frac{1}{n}} < 1\) が分かる。また、 \(a > 1\) の時は

\[ a^{\frac{1}{n}} < a^{\frac{1}{n'}} \quad \hbox{for} \quad \frac{1}{n} < \frac{1}{n'} \\ \quad \hbox{when} \quad a > 1 \tag{2-13} \]

実際、もし \(a^{\frac{1}{n}} > a^{\frac{1}{n'}} > 1\) なら

\[a = \left(a^{\frac{1}{n}}\right)^n \\ > \left(a^{\frac{1}{n}}\right)^{n'} \\ > \left(a^{\frac{1}{n'}}\right)^{n'} = a\]

で \(a > a\) となって矛盾。\(0 < a < 1\) の時は \(a\) の逆数を取ることにより、不等号の向きが逆になる。

有理数に対するべき乗も、(2-9) が成り立つことを指針として決める。すなわち \(n, m\) を \(p, \frac{1}{q}\) として \(a > 0\) に対して

\[ \left(a^{\frac{1}{q}}\right)^p = \left(a^p\right)^{\frac{1}{q}} = a^{\frac{p}{q}} \tag{2-14} \]

ここに、\(p,q\) は基本は自然数であるが \(q \neq 0\) として整数の場合にも拡張する。

有理数に対する指数関数にも整数に対する指数関数と同様な性質がなりたつ。すなわち、例えば \(a > 1\) の時

\[ a^{\frac{p}{q}} > a^{\frac{p'}{q'}} \quad \hbox{for} \quad \frac{p}{q} > \frac{p'}{q'} \tag{2-15} \]

が示せる。まず、\(p, p', q, q'\) を自然数として証明する。 \(p = p'\) の時は、(2-13) を \(p\)-乗して得られる。次に、(2-15) で \(q=q'\) としたものが既に証明されていることを使うと、\(\frac{p}{q} > \frac{p}{q'} > \frac{p'}{q'}\) に対して \( a^{\frac{p}{q}} > a^{\frac{p}{q'}} > a^{\frac{p'}{q'}}\) が得られる。\(p, p', q, q'\) が負になった場合も、不等号の向きが逆になることはあるが、同様にして証明される。

指数法則 (2-9) は \(n, m\) が有理数の場合にも拡張出来るが、その場合は \(a > 0\) と仮定するのが普通である。そのわけは、\(a < 0\) だと \(a^{\frac{p}{q}}\) が実数では表わされない場合があるからである。例えば、\((-2)^{\frac{1}{2}} = \sqrt{-2}\) は 2-乗して \(-2\) となる平方根であるが、虚数単位 \(i\) を使って \(2i\) と書ける複素数であり実数では表わされない。\(a > 0\) の時

\[ a^{\frac{p}{q}}\ a^{\frac{p'}{q'}} = a^{\frac{p}{q}+\frac{p'}{q'}} \tag{2-16} \]

は、(2-14), (2-9), (2-11) を使って証明出来る。実際、まず \(p, p' = 1\) の時は

\[ \left( a^{\frac{1}{q}}\ a^{\frac{1}{q'}} \right)^{qq'} = \left( a^{\frac{1}{q}}\right)^{qq'} \left( a^{\frac{1}{q'}}\right)^{qq'} \\ = a^{q'} a^q = a^{q'+q} = \left( a^{\frac{q'+q}{qq'}}\right)^{qq'} \\ = \left( a^{\frac{1}{q}+\frac{1}{q'}}\right)^{qq'} \]

より (2-11) を用いて示される。一般の場合にも、全体を \((qq')\)-乗して示すことが出来る。また、(2-9) の二番目の指数法則も同様にして有理数の場合に拡張出来る。まず (2-14) から

\[ \left\{ \left( a^{\frac{1}{q}}\right)^{\frac{1}{q'}}\right\}^{q'} \\ = a^{\frac{1}{q}} = \left( a^{\frac{1}{qq'}}\right)^{q'} \]

より (2-11) を使って

\[ \left( a^{\frac{1}{q}}\right)^{\frac{1}{q'}} = a^{\frac{1}{qq'}} \]

次に、これを使って

\[ \left( a^{\frac{p}{q}}\right)^{\frac{1}{q'}} = \left\{ \left( a^{\frac{1}{q}}\right)^p \right\}^{\frac{1}{q'}} \\ = \left( a^{\frac{1}{q}}\right)^{\frac{p}{q'}} =\left\{ \left( a^{\frac{1}{q}}\right)^{\frac{1}{q'}} \right\}^p \\ =\left( a^{\frac{1}{qq'}} \right)^p = a^{\frac{p}{qq'}} \]

更にこれを \(p'\)-乗して

\[ \left( a^{\frac{p}{q}}\right)^{\frac{p'}{q'}} = a^{\frac{p}{q} \cdot \frac{p'}{q'}} \quad \hbox{for} \quad a > 0 \tag{2-17} \]

が得られる。

最後に、実数 \(x\) に対する指数関数 \(a^x\ (a > 0)\) は、\(x\) に収束する単調増大、単調減少する有理数列 \(\frac{p}{q}→x\) を用いて定義出来る。例えば、 \( a > 1\) の時、\(a^{\frac{p}{q}}\) は有界単調列であるので \(\frac{p}{q}→x\) とするとある実数 \(c\in \boldsymbol{R}\) に収束する。そこで \(a^x\) を \(c\) で定義するのである。\(a^x = c\) つまり

\[ \lim_{\frac{p}{q}→x} a^{\frac{p}{q}} = a^{\lim_{\frac{p}{q}→x} \frac{p}{q}} \tag{2-18} \]

この様な定義は、あとで見る様に指数関数 \(a^x\) が連続関数であることを意味している。それは、有理数が実数の中で稠密に分布しているからである。 すなわち、ひとたび \(c\) が見つかれば、有理数 \(\frac{p}{q}\) は必ずしも単調列である必要はなく単に \(x\) に収束する点列であればよい。また、任意の \(x\) に収束する実数列でも良い。この時

\[ \lim_{h→0} a^{x+h} = a^x \quad \hbox{for} \quad a > 0 \tag{2-19} \]

この様にして (2-9) の指数法則は、\(a > 0\) の時、次の (実数) 指数関数の指数法則に一般化される。

\[ a^x\ a^y = a^{x+y} \quad , \quad (a^x)^y = a^{xy} \quad \hbox{for} \quad a > 0 \tag{2-20} \]

図2-1: 指数関数 \(f(x)=a^x\) (\(a >0\)) のグラフ、 \(a=10, e, 1, 0. 5\) の場合


(練習問題-2)

(1) \( \lim_{n→\infty} a^{1/n} = 1\) for \(a>1\) and \(a<1\)

(ヒント) 指数関数の連続性を使うと簡単。

(2) \( a > 1\) かつ \(k = 1, 2, 3, ... \) に対して、 \( \lim_{n→\infty} \frac{a^n}{n^k} = \infty\)

(ヒント) \(\frac{a_{n+1}}{a_n}\) を考える。

(3) \( \lim_{n→\infty} \frac{a^n}{n!} = 0 \) (既出)

(ヒント) これも、(2) と同じ様に考えると簡単。

ある有界数列 \(\{a_1, a_2, a_3, ... \}\) がある時、その部分集合には必ず上限と下限が存在するから \(n\in \boldsymbol{N}\) に対して

\[ \ell_n=\sup \{a_n, a_{n+1}, a_{n+2}, ... \} \\ m_n=\inf \{a_n, a_{n+1}, a_{n+2}, ...\} \]

を定義することが出来る。この時

\[ m_1 ≦ m_2 ≦ m_3 ≦ ... ≦ \ell_3 ≦ \ell_2 ≦ \ell_1 \]

であるから、有界単調列 \(\{m_n\}, \{\ell_{n}\}\) のそれぞれに極限が存在する。それらを

\[ \lim_{n→\infty} m_n = m \\ \lim_{n→\infty} \ell_n = \ell \]

とすると

\[ m_1 ≦ m_2 ≦ m_3 ≦ ... ≦ m ≦ \ell ≦ ... ≦ \ell_3 ≦ \ell_2 ≦ \ell_1 \]

が成り立つ。ここに、一般には \(m < \ell\) であるが、特に\(m = \ell\) の時に限り \(\{a_n\}\) は収束すると言って

\[ m = \ell = \lim_{n→\infty} a_n \]

と書く。\(\ell\) と \(m\) はまた

\[ \ell = \lim_{n→\infty} \sup a_n = \overline{\lim_{n→\infty}} a_n \\ m = \lim_{n→\infty} \inf a_n = \underline{\lim_{n→\infty}} a_n \]

と書いて、それぞれ上極限 (limes superior)、下極限 (limes inferior) と言う。

次の数列の収束判定条件 (Cauchy の判定条件) は、(1-7) に替わるものとして非常に有用である。

\[ \hbox{}^\forall \varepsilon \quad \hbox{}^\exists N \\ \ll |a_p-a_q| < \varepsilon \quad \hbox{}^\forall p > N \quad \hbox{and} \quad \hbox{}^\forall q > N \gg \tag{2-21} \]

まずこれが (必要条件) であることは、極限 \(a\) が存在するとして \(|a_p-a| < \varepsilon/2, |a_q-a| < \varepsilon/2\) から \(|a_p-a_q| ≦ |a_p-a|+|a-a_q| < \varepsilon\) としてすぐ分かる。問題は (十分条件) である。(2-21) が成り立つ時、\(n\) を十分大きな自然数として固定すると (2-21) の ≪ ... ≫ の中身は \[ |a_p-a_n| < \varepsilon \quad \hbox{}^\forall p > N \]

あるいは

\[ a_n-\varepsilon < a_p < a_n+\varepsilon \quad \hbox{}^\forall p > N \]

と書ける。ここに \(\{a_p\}\) は有界数列だから、上極限 \(\ell\) と下極限 \(m\) が存在する。従って、\(N\) を十分大きく取ると

\[ \ell-m = \ell - a_p + a_q - m + a_p - a_q \\ ≦ |\ell - a_p| + |a_q - m| + |a_p - a_q| < 3 \varepsilon \]

ここに \(\varepsilon\) は任意だから、\(\ell = m = \lim_{n→\infty} a_n = a\) が存在する。あとは、(2-21) で \(a_q → a\) として (1-7) が得られる。


級数、有限級数、無限級数、無限級数の収束と発散

数列の和を級数という。項の数が有限個の時「有限級数」、無限個の時「無限級数」という。例えば、有限級数の例は

\[ 1+2+3+... +n=\frac{1}{2} n(n+1) \tag{3-1a} \] \[ 1+2^2+3^2+... +n^2=\frac{1}{6} n(n+1)(2n+1) \tag{3-1b} \] \[ 1+2^3+3^3+... +n^3=\left(\frac{n(n+1)}{2}\right)^2 \tag{3-1c} \]

等である。これらを「代数」のところで学んだ \(\sum\) 記号を用いて書くと

\[ \sum_{r=1}^n r=\frac{1}{2} n(n+1) \tag{3-2a} \] \[ \sum_{r=1}^n r^2=\frac{1}{6} n(n+1)(2n+1) \tag{3-2b} \] \[ \sum_{r=1}^n r^3=\left(\frac{n(n+1)}{2}\right)^2 \tag{3-2c} \]

等である。まず (3-1a) or (3-2a) は、\(1+2+3+... +n\) を逆向きに加えて全体を 2 で割って簡単に得られる。次に (3-2b) は \((r+1)^3-r^3=3r^2+3r+1\) を \(r=1\) から \(r=n\) まで加えて、(3-2a) を使うと

\[ \sum_{r=1}^n (r+1)^3-\sum_{r=1}^n r^3=3 \sum_{r=1}^n r^2 +3 \sum_{r=1}^n r+\sum_{r=1}^n 1 \\ (n+1)^3-1=3 \sum_{r=1}^n r^2+\frac{3}{2} n(n+1)+n \\ \sum_{r=1}^n r^2=\frac{1}{3} \left(n^3+3n^2+3n-\frac{3}{2}n(n+1)-n \right) \\ =\frac{1}{6} n(2n^2+3n+1)=\frac{1}{6} n(n+1)(2n+1) \]

同様に (3-2c) は、\((r+1)^4-r^4\) と (3-2a)、(3-2b) を利用して得られる。

また別の例は、「代数」のところで既に学んだ等比級数型の部分和である。

\[ \sum_{r=0}^n x^r = 1+x+x^2+... +x^n \\ =\frac{x^{(n+1)}-1}{x-1} \\ = \frac{1-x^{(n+1)}}{1-x} \tag{3-3} \]

ここで、\(n → \infty\) とすると \(|x| < 1\) の時は \(-|x^n| ≦ x^n ≦ |x^n| = |x|^n → 0\) より、無限級数に対する和の公式

\[ \sum_{r=0}^{\infty} x^r = 1+x+x^2+...\\ =\frac{1}{1-x} \quad \hbox{for} \quad |x| < 1 \tag{3-4} \]

が得られる。ここで更に \(x → (1/x)\) に変えると

\[ \sum_{r=0}^{\infty} \frac{1}{x^r} = 1+\frac{1}{x}+\frac{1}{x^2}+... \\ = \frac{1}{1-\frac{1}{x}} =\frac{x}{x-1} \quad \hbox{for} \quad |x| > 1 \tag{3-5} \]

(練習問題-3) (3-4)\(× x\)+(3-5) をつくると

\[ ... +\frac{1}{x^2}+\frac{1}{x}+1+x+x^2+... \\ =\frac{x}{1-x}+\frac{x}{x-1}=0 \tag{3-6} \]

は間違いである。何故か?

一般に無限級数

\[ a_0+a_1+a_2+a_3+... +a_n+... → S \tag{3-7} \] が有限確定値 \(S\) をもつ時、無限級数は収束すると言って \[ S = a_0+a_1+a_2+a_3+... = \sum_{n=0}^{\infty} a_n \] と書く。(後での利便性のため、\(a_0\) を付け加えておく。) この時無限級数 (3-7) を二つに分けて \[ a_0+a_1+a_2+a_3+... =S_N+R_N \quad \hbox{with} \quad \\ S_N=a_0+a_1+a_2+... +a_N \\ R_N=a_{N+1}+a_{N+2}+... \tag{3-8} \]

として \(S_N\) を無限級数の有限和、 \(R_N\) を剰余項という。 \(S\) が有限確定なら \(\lim_{N→\infty}R_N=0\) が成り立つ。これは \(\lim_{N→\infty} S_N=S\) と同じことである。すなわち、無限級数 (3-7) か収束する時

\[ \hbox{}^\forall \varepsilon \quad \hbox{}^\exists N \quad \ll | a_{n+1}+a_{n+2}+ ... | < \varepsilon \\ \hbox{}^\forall n > N \gg \tag{3-9} \]

が成り立つ。あるいは、Cauchy の収束判定条件を用いると

\[ \hbox{}^\forall \varepsilon \quad \hbox{}^\exists N \quad \ll | a_{N+1}+a_{N+2}+ ... +a_{N+p}| < \varepsilon \\ \hbox{}^\forall p =1, 2, ... \gg \tag{3-10} \]

ここに、(3-10) の ≪ ... ≫ 部分は

\[ \ll | a_{n+1}+a_{n+2}+ ... +a_{n+p}| < \varepsilon \\ \hbox{}^\forall n > N ... \gg \tag{3-11} \]

である必要はない。なぜなら

\[ |a_{n+1}+a_{n+2} + ... +a_{n+p}| \\ =|a_{N+1}+a_{N+2} + ... +a_{n+p} - \left( a_{N+1}+a_{N+1}+ ... +a_{n} \right)| \\ ≦ |a_{N+1}+a_{N+2} + ... +a_{n+p}| + |a_{N+1}+a_{N+1}+ ... +a_{n}| \\ ≦ 2 \varepsilon \]

が成り立つからである。しかし、(3-10) で \(p → \infty\) として

\[ \hbox{}^\forall \varepsilon \quad \hbox{}^\exists N \quad \ll | a_{N+1}+a_{N+2}+ ... | < \varepsilon \gg \]

とすることは許されない。

ここまで \(S\) の存在を仮定したが、問題はこの逆、すなわち \(\lim_{N→\infty}R_N=0\) なら収束値 \(S\) が有限確定として存在するか?ということである。 残念ながら、これは無条件では満たされない。しかし、もし (3-7) の無限級数の各項が正 (否負) であれば満たされる。(3-7) で \(a_0≧0, a_1≧0, a_2≧0, ... \) が全て満たされる時、その級数を正項級数という。この時 \(S_N\) は単調増大数列となって、上に有界ならば必ず収束値 \(S\) が存在する。(3-9) の条件 \(\lim_{N→\infty}R_N=0\) は、この様な上界 \(c > S\) の存在を保証する。

一般の級数に戻って(3-7) の各項の絶対値を取ったものを、元の級数の「優級数」という。優級数が収束する時、すなわち

\[ |a_{N+1}|+|a_{N+2}|+ ... → 0 \quad \hbox{for} \quad N → \infty \tag{3-12} \]

の時、元の級数は絶対収束するという。この時優級数は Cauchy の収束判定条件 (3-9) を満たすから、元の級数ももちろん Cauchy の収束判定条件を満たす。従って、\(S\) が有限確定に決まり元の級数は \(S\) に収束する。絶対収束しないが \(S\) が存在する時、元の級数は条件収束するという。

ここでは証明しないが、絶対収束級数は加える項の順序をどの様に変えても同じ収束値に収束する。一方、条件収束級数は項の順序を変えてはいけない。実は、項の順序を変えるとどんな値にも収束するようにすることができる。

(条件収束級数の例)

証明を省略して、幾つかの例を挙げると

\[ 1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}-\frac{1}{4}+ ... = \log 2 = 0.6931 ... \\ 1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+ ... =\frac{\pi}{4} \]

この様に、正と負の項が交互に現われる級数を交代級数という。 これらは、それぞれ

\[ \log (1+x) = x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}-\frac{x^4}{4}+ ... \\ \hbox{arctan}\ x = x-\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}-\frac{x^7}{7}+ ... \]

で \(x=1\) としたものである。

(発散級数の例)

\(a_n → 0 \ (n → \infty\) は級数が収束するための必要条件だが、十分条件ではない。例えば

\[ \sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n} = 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+ ... \]

は発散する。実際、部分和を \( S_N=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+ ... +\frac{1}{N}\) とすると、\(R_{n, n}=\frac{1}{n+1}+\frac{1}{n+2}+ ... +\frac{1}{2n}\) として

\[ S_{2^{n+1}}=1+R_{1, 1}+R_{2, 2}+R_{4, 4}+ ... +R_{2^n, 2^n} \]

となるが、\( R>\frac{n}{n+1}\) より

\[ S_{2^{n+1}} > 1+\frac{1}{2}+\frac{2}{3}+\frac{4}{5}+ ... +\frac{2^n}{2^n+1} \\ > 1+\frac{1}{2}+n\frac{2}{3} → \infty \quad (n→\infty) \]

となり、発散する。しかし、自然対数 \(\log N\) を引いておけば収束する。すなわち

\[ \gamma = \lim_{N→\infty} \left( 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+ ... +\frac{1}{N} -\log N \right) \\ = 0.57722 ... \]

\(\gamma\) を Euler 係数と言う。

(例) ネピア数、あるいは自然対数の底

\[ a_n = \left( 1+\frac{1}{n} \right)^n \]

は有界単調増大数列である。実際、二項定理 (「代数」の項参照) を用いると

\[ a_n = \sum_{r=0}^n \binom{n}{r} \left(\frac{1}{n}\right)^r \\ = \sum_{r=0}^n \frac{n(n-1) ... (n-r+1)}{r!} \left(\frac{1}{n}\right)^r \\ = \sum_{r=0}^n \frac{1}{r!} \left(1-\frac{1}{n}\right) \left(1-\frac{2}{n}\right) ... \left(1-\frac{r-1}{n}\right) \]

だが、\(n\) を増やすと正の値の各項は増大し、かつ項の数は増えるので単調増大数列である。更に各項は \(\frac{1}{r!}\) より小さく、\(2! ≧ 2, 3! > 2^2, 4! > 2^3, ... , r! > 2^{r-1}\) より

\[ a_n < 1+1+\frac{1}{2!}+ ... + \frac{1}{r!}+ ... +\frac{1}{n!} \\ < 1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+ ...+\frac{1}{2^{n-1}} \\ = 1+\frac{1-\frac{1}{2}^n}{1-\frac{1}{2}} < 1+\frac{1}{1-\frac{1}{2}} = 3 \tag{3-13} \]

従って \(\{a_n\}\) は有界単調増大数列であり、3 より小さいある実数値に収束する。これを、\(e\) と表わしネピア数とか自然対数の底とか言う。すなわち

\[ \lim_{n→\infty} \left( 1+\frac{1}{n} \right)^n = e = 2.7128 ... \tag{3-14} \]

\(e\) は π と同じ様に、超越数と呼ばれる無理数である。実は (3-13) に現れる級数

\[ S_n = 1+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+\frac{1}{3!}+ ...+\frac{1}{n!} \]

も有界単調増大級数であり、ある実数値に収束する。ここでは証明しないが、この実数値も \(e\) である。すなわち

\[ \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} = 1+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+\frac{1}{3!}+ ... = e \tag{3-15} \]

(3-14) は、\(n\) を連続変数にしても成り立つ。つまり

\[ \lim_{x→\infty} \left( 1+\frac{1}{x} \right)^x = e \tag{3-16} \]

これを示すためには、まず \(n < x < n+1\) として

\[ \left(1+\frac{1}{n+1}\right)^n < \left(1+\frac{1}{x}\right)^x < \left(1+\frac{1}{n}\right)^{n+1} \]

あるいは

\[ \frac{\left(1+\frac{1}{n+1}\right)^{n+1}}{\left(1+\frac{1}{n+1}\right)} < \left(1+\frac{1}{x}\right)^x < \left(1+\frac{1}{n}\right)^{n} \left(1+\frac{1}{n}\right) \]

そこで、\(n→\infty\) として (3-14) と (1-8) を使うと左右が \(e\) に収束することにより (3-16) が成り立つ。

(3-16) で \(x→n/x\) (\(x \neq 0\) とする) と変えて \(n→\infty\) に戻すと

\[ \lim_{n→\infty} \left( 1+\frac{x}{n} \right)^n \\ = \lim_{n→\infty} \left\{ \left( 1+\frac{x}{n} \right)^{\frac{n}{x}} \right\}^x \\ = e^x \tag{3-17} \]

これは、実数変数の指数関数である。\(x=0\) における連続性から \(e^0=1\) である。後で、複素変数の指数関数の特別の場合として

\[ e^x=1+\frac{x}{1!}+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+ ... \tag{3-18} \]

であることが分かる。


連続関数、一様連続

開区間でも閉区間でも良いがある領域で定義された関数 \(y=f(x)\) がある時、 \(f(x)\) がある点 \(x_0\) で連続であるとは

\[ \hbox{}^\forall \varepsilon > 0 \quad \hbox{}^\exists \delta > 0 \quad \\ \ll |f(x)-f(x_0)| < 0 \quad \hbox{}^\forall \ |x-x_0| < \delta \gg \tag{4-1} \]

であることを意味する。(これが、いわゆる \(\delta\) - \(\varepsilon\) ee論法である。) (4-1) を

\[ \lim_{x→x_0} f(x) = f(x_0) \tag{4-2} \]

と書く。\(x\) が \(x_0\) に近づく時、\(x_0\) より大きい方から近づく場合と小さい方から近づく場合があるが、これらを \(x→x_0+0\) と \(x→x_0-0\) で区別する。(\(x_0=0\) の時は、\(\pm 0\) と書く。) すると、 (4-2) はより正確には

\[ \lim_{x →x_0+0} f(x) = \lim_{x→x_0-0} f(x) = f(x_0) \tag{4-3} \]

のことである。

(例-1) 例えば、関数 \(f(x)=\frac{1}{x}\) は実数全体の \((-\infty, \infty)\) で定義されている様に見えるが、実は \(x=0\) では定義されていない。すなわち、そもそも \(f(0)\) は存在しない。これを \(f(0)=0\) と定義して避けることも出来るが、それでも \(f(x)\) は \(x=0\) で不連続である。なぜなら、 \(\lim_{x→+0}=\infty, \lim_{x→-0}=-\infty\) であるし、そもそも \(\infty\) や \(-\infty\) は数ではないからである。

\[ f(x) = \left\{ \begin{array} \\ 1 & & x > 0 \\ 0 & \hbox{for} & x = 0 \\ -1 & & x < 0 \\ \end{array} \right. \tag{4-4} \]

は \(\lim_{n→+0} f(x) = 1, \lim_{n→-0} f(x) = -1\) で有限確定だが、三つの値が全て違うので不連続である。

P (例-3) 除きうる不連続点:

\[ f(x) = \frac{\sin x}{x} \tag{4-5} \]

は \(x=0\) では \(\frac{0}{0}\) で元来は定義されていないが、\(f(0)=1\) と定義すると

\[ \lim_{x→+0} \frac{\sin x}{x} = \lim_{x→-0} \frac{\sin x}{x} = 1 \tag{4-6} \]

であるから \(f(x)\) は \(x=0\) で連続である。この様な点を、除き得る不連続点とか「除きうる特異点」とかいう。(図4-3 参照) (4-6) の \(x > 0\) の時の極限は「幾何」の項の (8-1) に与えられている。 \( x < 0\) の時は、\(\sin x\) と \(x\) が奇関数であることによる。

(追記) \(\theta > 0\) をラジアンで測った時に

\[ \lim_{\theta→0+} \frac{\sin \theta}{\theta} = 1 \]

となることは、直径 1 の円の十分小さな円周角 \(\theta\) について

\[ \sin \theta < \theta < \tan \theta \quad \hbox{for} \quad 0 < \theta \sim 0 \]

の関係式 (図4-2 参照) を考えることによって容易に示すことが出来る。


図4-2: 半径 1 の円の中心角 \(\theta\) に対応する円弧の長さと \(\sin \theta, \tan \theta \) との関係


図4-3: 関数 \(f(x)=\frac{\sin x}{x}\) のグラフ、除きうる不連続点 \(x=0\)


二つの関数 \(f(x), g(x)\) が連続の時、それらの和差 \(f(x) \pm g(x)\) や積 \(fx) g(x)\) は連続である。また、商 \(\frac{f(x)}{g(x)}\) もまたそれが意味をなす限り連続である。これらは、任意の有限個の操作にまで拡張出来る。

(例-4) \(f(x)=x^n \quad n=1, 2, ... \) は任意の実数点 \(x_0\in \boldsymbol{R}\) で連続である。実際、

\(|x|, |x_0| < M\) として \(\delta < \varepsilon/(nM^n)\) と取ると \(|x-x_0| < \delta\) に対して \[ |x^n-{x_0}^n| < |(x-x_0)(x^{n-1}+x^{n-2}x_0+ ... +{x_0}^{n-1})| \\ < |x-x_0| nM^n < \delta nM^n < \varepsilon \] が示せる。

(例-5) \(f(x)=e^x\) は任意の実数点 \(x_0\in \boldsymbol{R}\) で連続である。 まず、(3-17) で定義した \(e^x\) が \(x=0\) で連続であることを示す。(3-13) と同様にして、任意の \(\hbox{}^\forall h\in (0, 1)\) に対して

\[ 1 < \left(1+\frac{h}{n}\right)^n \\ < 1+\frac{h}{1!}+\frac{h^2}{2!}+\frac{h^3}{3!} + ... +\frac{h^n}{n!} \\ =1+h \left( 1+\frac{h}{2!}+\frac{h^2}{3!}+ ... +\frac{h^{n-1}}{n!}\right) \\ < 1+h \left( 1+h+h^2+h^3+ ... \right) \\ = 1+h \frac{1}{1-h} = \frac{1}{1-h} \]

が成り立つ。そこで、\(n→\infty\) として (3-17) より

\[1 ≦ e^h ≦ \frac{1}{1-h} \quad \hbox{}^\forall h\in (0, 1) \]

ここで、\(h\) は任意に小さく取れるから \(h→0\) として

\[ \lim_{h→0} e^h = 1 \]

が成り立つ。 \(h < 0\) の時は、\(e^{-h}=\frac{1}{e^h}\) をつ使えば良い。次に指数法則から

\[ |e^{x+h}-e^x| = e^x |e^h-1| → 0 \quad \hbox{for} \quad h→0 \]

より、\(e^x\) は全ての \(x\) で連続であることが分かる。

(4-1) で、一般には \(\delta\) は収束点 \(x_0\) による (すなわち \(\delta=\delta_{x_0}\)) が、もしこれが \(x_0\) によらない場合「一様連続」という。命題のかたちで述べると

「閉区間 \(I=[a, b]\) で定義された連続関数 \(f(x)\) for \(x\in I\) は一様連続である。」

式で表わすと

\[ \hbox{}^\forall \varepsilon > 0 \quad \hbox{}^\exists \delta > 0 \\ \ll |f(x')-f(x)| < \varepsilon \quad |x'-x| < \delta \gg \tag{4-7} \] ここに \(\delta\) は \(x', x\) によらないものとする。

これを示すために、まず「Heine-Borel の定理」について説明する。

「有界閉区間 \(I=[a, b]\) を覆う無限個の開区間がある時、そこから有限個の開区間を選び出してそれだけで \(I\) を覆うことが出来る。」

証明は、区間縮小法による。今 \(I\) で定義された連続関数 \(f(x)\) がある時、 \(x\in I\) に対して

\[ \hbox{}^\forall \varepsilon \quad \hbox{}^\exists \delta_x \\ \ll |f(x')-f(x)| < \varepsilon \quad \hbox{}^\forall |x'-x| < \delta_x \gg \tag{4-8} \]

が成り立つ。そこで

\[ I(x)=(x-\delta_x, x+\delta_x) \tag{4-9} \]

とおくと、(4-8) の \(\ll ... \gg\) は

\[ |f(x')-f(x)| < \varepsilon \quad \hbox{}^\forall x'\in I(x) \tag{4-10} \]

と表わされる。ここに \(\{I(x)\}_{x\in I}\) は

\[ I ⊂ ∪_{x\in I} I(x) \tag{4-11} \]

より \(I\) を覆う無限個の開区間を与える。もし \(I\) が有限個の開区間で覆いきれないとすると、\(I\) を \([a, \frac{a+b}{2}]\) と ([\frac{a+b}{2}, b]\) の二つに分けた時にどちらかが有限個の開区間で覆いきれない。そこで、覆いきれない方の閉区間を \(I_1\) として、これを更に二等分して覆いきれない方の閉区間を \(I_2\) とする。この操作を繰り返して \(I⊃I_1⊃I_2⊃ ... \) とすると、閉区間の長さは半分づつになっていくので極限で或る実数\(x_0\) に収束する。\(x_0\in I\) だから、(4-11) より或る \(\lambda \in I\) があって \(x_0\) は開区間 \(I(\lambda)\) に含まれる。そこで、\(x_0\) を含む十分小さい閉区間がただ一つの開区間に含まれることになり、有限個の開区間では覆われないという仮定に反する。(証明終わり)

この命題により、(4-11) で有限個の \(x_1, x_2, ... ,x_n\) を選び出して、それだけで \(I\) を覆い尽くすことが出来る。すなわち

\[ I ⊂ ∪_{r=1, 2, ... ,n} I(x_r) \tag{4-12} \]

更に、各 \(I(x_r)\) に含まれる閉区間 \(J_r\) を用いて \(I\) を

\[ I = J_1+J_2+ ... +J_n \\ J_r ⊂ I(x_r) \quad (r = 1, 2, ... ,n) \]

と分解することが出来る。ここで、\(\delta_{x_r} \ (r=1, 2, ... ,n)\) の最小値を \(\delta_0\) として \( |\xi'-\xi| < \delta_0\) とすると、\(\xi'\) と \(\xi\) は同じ \(J_r\) に属するか、隣り合う \(J_r\) と \(J_{r+1}\) にそれぞれ属するかのどちらかである。前者の場合には

\[ |f(\xi')-f(\xi)| = |f(\xi')-f(x_r)+f(x_r)-f(\xi)| \\ < |f(\xi')-f(x_r)|+|f(x_r)-f(\xi)| < 2 \varepsilon \]

後者の場合には \(\xi'\in J_r, \xi\in J_{r+1}\) かつ \(J_r\) と \(J_{r+1}\) の間の境を \(\xi_0\) として

\[ |f(\xi')-f(x)| \\ = |(f(\xi')-f(x_r))-(f(\xi_0)-f(x_r))-(f(\xi)-f(x_{r+1})+(f(\xi_0)-f(x_{r+1})| \\ < |f(\xi')-f(x_r)|+|f(\xi_0)-f(x_r)|+|f(\xi)-f(x_{r+1})|+|f(\xi_0)-f(x_{r+1}| \\ < 4 \varepsilon \]

ここに、\(\xi', \xi\) とも \(\delta_0\) によらないから (4-7) が成り立つ。

ここで証明した有界閉区間 \(I=[a, b]\) における連続関数 \(f(x)\) の一様連続性を用いると、次の様な重要な性質をいくつか証明することが出来る。

(1) \([a, b]\) で連続な関数は有界である。

(2) \(f(x)\) は \([a, b]\) で最大値と最小値をもつ。

(3) \(f(a) < 0, f(b) > 0\) なら或る \(c\in [a, b]\) があって \(f(c)=0\) が成り立つ。

実際、\(f(x)\) に上界が存在しないとすると、閉区間を半分に割った時二つの閉区間のうちどちらかで上界が存在しない。この操作を続けていくと或る一点 \(x\in I\) でも上界が存在しないことになって \(x\) での連続性に反する。上界が存在すれば、上限が存在する。下界、下限についても同様である。次に、この上限を \(M\) 下限を \(m\) とするとこれらは \(f(x)\) の最大値と最小値である。なぜなら、例えば \(M\) が最大値でなければ \(M-f(x) > 0 \ \hbox{}^\forall x\in I\) であるので \( \frac{1}{M-f(x)}\) は \(I\) で定義された常に正なる連続関数で (1) より上に有界である。しかるに、上限の定義より \(\hbox{}^\forall \varepsilon > 0\) に対して或る \(x\in I\) があって \(M-\varepsilon < f(x)\) が成り立つ。そこで、\(\frac{1}{M-f(x)} > \frac{1}{\varepsilon}\) より \(\varepsilon\) は任意に小さく取れるから、上に有界であることと矛盾する。すなわち、\(M\) は最大値でなければならない。\(m\) が最小値であることも同様である。

(3) を示すためには、再び有界閉区間 \(I=[a, b]\) の二分割法を用いる。すなわち、\(I ⊃ I_1 ⊃ I_2 ⊃ ... \) を作って各 \(I_n = [a_n, b_n]\) で \(f(a_n) < 0, f(b_n) > 0\) が成り立つ様にする。極限点 \(\lim_{n→\infty} a_n = \lim_{n→\infty} b_n = c\in I\) で \(f(x)\) は連続であることにより、\(\lim_{n→\infty} f(a_n) = f(c) ≦ 0, \lim_{n→\infty} f(b_n) = f(c) ≧ 0\) から \(f(c) = 0\) が分かる。

(3) から、次の重要な定理を示すことが出来る。

(4) 有界閉区間 \([a, b]\) で定義された連続関数 \(f(x)\) に対して、次の「中間値の定理」が成り立つ。\(f(a) < \mu < f(b)\) の時、或る \(c\in I\) があって \(f(c)=\mu\) と出来る。実際、\(F(x)=f(x)-\mu\) とおくと \(F(x)\) は \([a, b]\) における連続関数だから、(3) を適用してこの命題が正しいことが分かる。不等号の向きが逆の場合も、同様な式が成り立つ。

(5) (真に) 単調増大な連続関数 \(f(x)\) に対して逆関数が存在し、それもまた (真に) 単調増大でかつ連続である。一般に関数 \(y=f(x)\) がある時、それを逆向きに解いて得られる関数 \(x=g(y)\) を逆関数という。直交座標系では、逆関数のグラフは \(x\)-座標と \(y\)- 座標をひっくり返して、\(y = x\) の直線についてもとのグラフと対称なグラフによって表わされる。\(f(x)\) が (真に) 単調増大の場合には、 \(x\in [a, b]\) が \(a\) から \(b\) に単調増大する時 \(f(x)\) も \(f(a)\) から \(f(b)\) まで単調増大するから \(f(x)\in [f(a), f(b)]\) である。\(f(x)\) が連続の時、(2) から \(f(x)\) は \([a, b]\) で最大値と最小値を持つが、\(f(a)\) が最小値、\(f(b)\) が最大値である。また (4) の中間値の定理より、任意の \(f(c)\in [f(a), f(b)]\) の値に対して一意的に \(c\in [a, b]\) が決まる。\(f(c)=y\) の時、この \(c\) を \(c=x=g(y)\) と定めると、\(g(y)\) は \([f(a), f(b)]\) を \([a, b]\) に移す (真に) 単調増大な連続関数である。連続関数であることは、\( 0 < f(a) < f(b)\) で \(f(b)→f(a)\) とすると \(b→a\) となることから明らかである。(もしそうでないとすると、\(c\) の一意性に反する。)

以上、実数の数列や級数、実数関数の連続性について議論して来たが、複素数を含む場合もほぼ同様である。例えば、複素数 \(z\) の関数 \(\omega = f(z)\) を複素関数というが (\(\omega\) も複素数である。) その連続性は

\[ \forall \varepsilon > 0 \quad \exists \delta > 0 \quad \\ << |f(z)-f(z_0)| < 0 \quad \forall \ |z-z_0| < \delta >> \tag{4-13} \]

となるだけである。ここに、複素数の絶対値は、例えば \(z=x+yi, z_0=x_0+y_0 i\) の時

\[ |z-z_0|= \sqrt{(x-x_0)^2+(y-y_0)^2} \]

である。

また、一次元の有界閉区間 \([a, b]\) に類似のものとして複素平面における有界閉領域がある。例えば、半径 \(R\) の円盤にその周辺を付け加えたものは有界閉領域である。

\[ S = \{z\in \boldsymbol{C} | |z-z_0| ≦ R \tag{4-14} \]

以下、複素数のべき級数等は主にこの様な有界閉領域で考える。


べき級数、収束半径、一様収束

無限級数 (3-7) の各項 \(a_n\) は複素数 \(z\) の関数 \(u_n(z)\) であっても良い。複素平面の有界閉領域で定義された連続関数 \(u_n(z)\) の無限級数

\[ f(z) = u_0(z)+u_1(z)+u_2(z)+ ... +u_n(z)+ ... \\ = f_N(z)+R_N(z) \quad \hbox{with} \\ f_N(z) = u_1(z)+u_2(z)+ ... +u_N(z)+R_N(z) \quad \hbox{and} \\ R_N(z) = u_{N+1}(z)+u_{N+2}+ ... \tag{5-1} \]

が収束する時 \[ \hbox{}^\forall \varepsilon > 0 \quad \hbox{}^\exists N \\ \ll |R_n(z)| < \varepsilon \quad \hbox{}^\forall n > N \gg \tag{5-2} \]

であるが、一般には \(N\) は \(z\) に依存する。すなわち、\(N=N(z)\) である。 しかし、もし今 \(N\) が \(z\) に依存しなければ「級数は \(z\) にかかわらず一様収束する」と言って\(f(z)\) もまた連続関数となる。(命題-1) 実際、 \(f_n(z)\) の(一様)連続性より (5-2) の \(\varepsilon\) に対して

\[ \hbox{}^\exists \delta > 0 \\ \ll |f_n(z')-f_n(z)| < \varepsilon \quad \hbox{}^\forall |z'-z| < \delta \gg \]

そこで

\[ f(z')-f(z)|=|(f_n(z')+R_n(z'))-(f_(z)+R_n(z))| \\ < |f_n(z')-f_n(z)|+|R_n(z')|+|R_n(z)| < 3 \varepsilon \] となるからである。

(5-1) で、特に \(u_n(z)=a_n z^n\) の時

\[ f(z) = a_0+a_1 z+a_2 z^2+ ... +a_n z^n+ ... \tag{5-3} \]

をべき級数という。ここに、係数 \(a_n\) は複素数でも良いが、一般には実数であることが多い。ここでは、一応実数と考えて議論を進める。

まずはじめに、(5-3) が \(z_0\) で収束すれば、\(f(z)\) は \(|z| < |z_0|\) を満たす複素平面上の全ての点 \(z\) で収束して、しかもそれは絶対一様収束である。(命題-2) なぜなら、(5-3) が \(z_0\) で収束すれば Cauchy の収束判定条件より \(\lim_{n→\infty} |a_n {z_0}^n| = 0\) だが、このことは十分大きな \(N\) に対して

\[ |a_n {z_0}^n| < M \quad \hbox{}^\forall n > N \]

を意味する。そこで \(|z| < |z_0|\) に対して

\[ |a_n z^n| = |a_n {z_0}^n| \left( \frac{|z|}{|z_0|} \right)^n < M \left( \frac{|z|}{|z_0|}\right)^n \]

より

\[ \sum_{n=N+1}^{\infty} |a_n z^n| < M \sum_{n=N+1}^{\infty} \left( \frac{|z|}{|z_0|}\right)^n \\ = M \left( \frac{|z|}{|z_0|} \right)^{N+1} \sum_{n=0}^{\infty} \left( \frac{|z|}{|z_0|}\right)^n \\ = M \left( \frac{|z|}{|z_0|} \right)^{N+1} \frac{1}{1-\frac{|z|}{|z_0|}} → 0 \quad \hbox{for} \quad N → \infty \]

だから (5-3) は絶対収束である。更に、\(z_0\) の代わりに \(|z| < r < |z_0|\) なる \(r\) を取れば、 \(N\) は \(z\) に依存せず絶対一様収束であることが分かる。ここで、最初の命題 (命題-1) を適用すれば \(a_n z^n\) の連続性が \(f(z)\) に伝わり、 \(f(z)\) は連続であることが分かる。(命題-3)

これまで議論したことを使えば、次の命題が成り立つ。

「べき級数 (5-3) が \(z_0\) で絶対収束しなければ、\(|z| > |z_0|\) なる全ての \(z\) で発散する。(条件収束もしない。) (命題-4)」

実際、もし収束するとすると (命題-2) を逆に使って \(z_0\) で絶対一様収束するから仮定に反する。一般には、絶対収束しないからといって発散するとは限らない。条件収束する場合もあるからである。しかし、べき級数の場合には一般項が \( u_n(z)=a_n z^n\) という特殊なかたちであることによって、この様な簡単な性質が成り立つのである。

次にべき級数の収束半径について議論する。べき級数 (5-3) において

\[ R = \{r\in [0, \infty) | \sum_{n=0}^{\infty} |a_n| r^n < \infty\} \tag{5-4} \]

とした時、 \(0\in R\) より \(R\) は空集合ではないが、\(R\) の上限をべき級数の収束半径といい \(\rho=\sup R\) で表わす。つまり

\[ \hbox{i)} \quad r ≦ \rho \quad \hbox{}^\forall r\in R \\ \hbox{ii)} \quad \hbox{}^\forall \varepsilon \quad \hbox{}^\exists r \in R \quad \ll \rho-\varepsilon < r \gg \tag{5-5} \]

(5-4) で \( ... < \infty\) は、左辺の和が有限確定であることを示す。 この時、\(f(z)\) の収束性について次のことが成り立つ。

(1) \(|z| < \rho\) の時、絶対収束

(2) \(|z| > \rho\) の時、発散 (一様収束もしない)

6 (3) \(|z| = \rho\) の時は要注意

(証明) まず \(|z| < \rho\) なら ii) で \(\varepsilon=\rho-|z|\) と取って \(|z| < r\) より

\[ \sum_{n=0}^{\infty} |a_n| |z|^n < \sum_{n=0}^{\infty} |a_n| r^n < \infty \]

から絶対収束。次に \(|z| > \rho\) の時、\(|z| > r > \rho\) に対して i) から \(r\notin R\) そこで、\(r\) で絶対収束しないから(命題-4)より \(z\) で発散し、一様収束もしない。

上で (1)-(2) に現われる \(\rho\) は一意的に決まる。実際、もし \(\rho < \rho'\) と二つあったとすると、\(\rho < r <\rho'\) なる \(r\) に対して \(\rho\) からは発散、\(\rho'\) からは収束となって矛盾。そこで \(\rho ≧ \rho'\)。また逆の不等号に対しても \(\rho ≦ \rho'\)。そこで \(\rho=\rho'\) となる。(証明終わり)

(5-4) で \(R\) が上界を持たない場合もあり得る。すなわち、\(R=[0, \infty]\) で全ての \(r\) でべき級数が絶対収束する場合である。この時 \(\rho=\infty\) で、べき級数は複素平面上の全ての \(z\) で収束する。次の指数関数は、一つの例である。 この様な関数を「整関数」という。

(例-1) 指数関数

複素数 \(z\in \boldsymbol{C}\) に対して、その指数関数 \( f(z)=\exp z\) を次の無限級数で定義する。

\[ \exp z = 1+\frac{z}{1!}+\frac{z^2}{2!}+\frac{z^3}{3!}+ ... \tag{5-6} \]

これは (5-3) で係数定数が \(a_n=\frac{1}{n!}\) の時のべき級数である。容易に分かる様に、十分大きな \(0 < R < N\) に対して

\[ \frac{R^{N+1}}{(N+1)!}+\frac{R^{N+2}}{(N+2)!}+\frac{R^{N+3}}{(N+3)!}+ ... \\ = \frac{R^{N+1}}{(N+1)!} \left( 1+\frac{R}{(N+2)}+\frac{R^2}{(N+2)(N+3)}+ ... \right) \\ < \frac{R^{N+1}}{(N+1)!} \left( 1+\frac{R}{(N+2)}+\left( \frac{R}{(N+2)}\right)^2+ ... \right) \\ = \frac{R^{N+1}}{(N+1)!} \frac{1}{1-\frac{R}{(N+2)}} → 0 \quad \hbox{for} |\quad N→\infty \tag{5-7} \]

であるから、(5-6) は全複素平面で絶対一様収束であり、かつ連続である。 \[ \lim_{z→\zeta} \exp z = \exp \zeta \tag{5-8} \]

ここでは詳しい証明は省略するが、絶対収束級数については項の順番をどの様に変えても良いので、二項定理を用いると (5-6) から指数関数の加法定理 (指数法則) を導くことが出来る。すなわち

\[ \exp z_1 \ \exp z_2 = \sum_{p=0}^{\ infty} \frac{1}{p!} (z_1)^p \sum_{q=0}^{\infty} \frac{1}{q!} (z_2)^q \\ =\sum_{p=0}^{\infty} \sum_{q=0}^{\infty} \frac{1}{p! q!} (z_1)^p (z_2)^q \\ =\sum_{N=0}^{\infty} \sum_{p+q=N} \frac{1}{N!}\frac{N!}{p! q!} (z_1)^p (z_2)^q \\ =\sum_{N=0}^{\infty} \frac{1}{N!} \sum_{p+q=N} \frac{N!}{p! q!} (z_1)^p (z_2)^q \\ =\sum_{N=0}^{\infty} \frac{1}{N!} (z_1+z_2)^N =\exp (z_1+z_2) \tag{5-9} \]

また、これを繰り返し使って

\[ \exp z_1 \ \exp z_2 \ \exp z_3 \ .... \exp z_n \\ =\exp (z_1+z_2+z_3+ ... +z_n) \\ (\exp z)^n = \exp nz \tag{5-10} \]

(5-6) で \(z=0\) とおくことにより \(\exp 0 = 1\) だから

\[ \exp z\ \exp (-z) = \exp 0 = 1 \tag{5-11} \]

そこで

\[ \exp z \neq 0 \quad \hbox{for} \quad \hbox{}^\forall z\in \boldsymbol{C} \tag{5-12} \]

特に、\(z\) が実数 \(x\in \boldsymbol{R}\) の時

\[ \exp x = 1+\frac{x}{1!}+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+ ... > 1 \quad \hbox{for} \quad x > 0 \tag{5-13} \]

\( x < 0\) の時は

\[ 0 < \exp x = \frac{1}{\exp (-x)} < 1 \quad \hbox{for} \quad x < 0 \tag{(5-14} \]

\(\exp x\) は \(\exp x > 0\) なる (真に) 単調増大関数である。(図1 参照) つまり

\[ \exp (x+h) - \exp x = \exp x (\exp h - 1) > 0 \\ \quad \hbox{for} \quad h > 0 \tag{5-15} \]

(5-6) から

\[ \frac{\exp z - 1}{z} =1+\frac{z}{2!}+\frac{z^2}{3!}+\frac{z^3}{4!}+ ... \tag{5-16} \]

であるが、この級数は (5-7) と同様な議論から絶対一様収束で連続であり、 \(\exp\) と似た様な性質を持っている。( \(\frac{\exp z -1 -z}{z^2}\) 等についても同様である。) (5-16) の左辺の関数は、\(z=0\) で \(\frac{0}{0}\) で不定であるが

\[ \lim_{z→0} \frac{\exp z - 1}{z} = 1 \tag{5-17} \]

より、1 と定義すれば \(z=0\) で連続になる。すなわち、除きる得る不連続点である。(複素関数の場合は、除き得る特異点といって微分可能性に結びついたより深い意味を持っている。) \(z\) が実数の場合、(5-17) を

\[ \lim_{h→0} \frac{\exp h - 1}{h} = 1 \tag{5-18} \]

と書いて、次章で学ぶ微分の定義と記号を用いると

\[ \frac{d \exp x}{d x} = \lim_{h→0} \frac{\exp (x+h) - \exp x}{h} \\ = (\exp x) \lim_{h→0} \frac{\exp h - 1}{h} = \exp x \tag{5-19} \]

すなわち、指数関数 \(\exp x\) の微分は自分自身であり、何回も微分出来る非常に簡単な性質を持つ特殊な関数であることが分かる。

ここで、(3-15) で見た様に \(\exp x\) の \(x=0\) における値 \(\exp 1\) を \(e\) と書いて、自然対数の底という。 すなわち

\[ e = \exp 1 = 1+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+\frac{1}{3!}+ .... \tag{5-20} \]

\(\exp z = e^z\) であることは、\(z\) が整数や有理数の時は (5-20) と指数法則 (5-10) 等を用いて示すことが出来る。実数や複素数の時は (5-6) を \(e^z\) の定義であると考えるのが妥当である。(「実数の連続性」のところでは、これを使って有理数の指数関数を実数の指数関数に拡張したが、複素数の指数関数への同様な拡張はいわゆる解析関数の「解析接続」によって実現される。)

(追記) (5-10) で \(z=1\) とおいて (5-20) を使うと \(\exp n = e^n\)。(5-11) より \(\exp (-n) = \frac{1}{\exp n} = \frac{1}{e^n} = e^{-n}\)。また (5-10) で \(z = \frac{1}{n}\) とおいて、\((\exp \frac{1}{n})^n = \exp 1 = e\)。\(n\)-乗して \(e\) となる実数は \(n\)- 乗根であり、\(\sqrt[n]{e}=e^{\frac{1}{n}} > 0\) であるので \( \exp \frac{1}{n} = e^{\frac{1}{n}}\)。\(m\) も自然数として、全体を \(m\) 回掛けると \(exp \frac{m}{n} = e^{\frac{m}{n}}\)。ここで、\(\exp x\) と \(e^x\) の連続性を使うと \( \exp x = e^x\) が分かる。これを \(y\)-乗して (2-18) を使うと

\[ (\exp x)^y = (e^x)^y = e^{xy} = \exp (xy) \tag{5-21} \]

が成り立つ。

(例-2) 対数関数

実数指数関数 \(e^x = a\) は、\(x\in (-\infty, \infty)\) で定義された \((0, \infty)\) に値を持つ (真に ) 単調増大な連続関数である。そこで第4章の (5) により、 \((0, \infty)\) で定義された逆関数が存在しそれを、\(x = \log a\) と書いて自然対数という。 すなわち

\[ e^x = a \quad \Leftrightarrow \quad x = \log a \quad \hbox{for} \quad a>0 \tag{5-22} \]

ここから、\(a = e^{\log a} \ \hbox{for} \ a > 0\)、かつ \( \log e^x = x \) が分かる。 対数関数 \(g(x) = \log x\) もまた、\(x\in (0, \infty)\) で定義された \(-\infty, \infty)\) に値を持つ (真に) 単調増大な連続関数である。(図5-1 参照)

図5-1: 指数関数 \(f(x)=e^x\) とその逆関数 \(f(x)=\log x\) のグラフ (自然対数の底 \(e\) の場合)


指数関数に対して成り立つ指数法則 (5-10) や (5-21) は、対数関数に対する対数法則に対する対数法則に書き換えられる。例えば、\(e^x=a, e^y=b\) を \(x=\log a, y=\log b\) と書いて \(e^{x+y} = e^x\ e^y = ab\) とすると、 \(x+y = \log {ab}\) より

\[ \log {ab} = \log a + \log b \tag{5-23} \]

これを繰り返し使って

\[ \log {a_1 a_2 ... a_n} = \log a_1 + \log a_2 + ... +\log a_n \\ \log {a^n} = n \log a \tag{5-24} \]

が得られる。また、(5-21) は \( \log \left( e^x\right)^y = \log a^y = xy\)) より

\[ \log a^y = y \log a \quad \hbox{for} \quad a > 0 \tag{5-25} \]

が得られる。

(5-20) で定義した \(e\) が (3-14) で定義した \(e\) と同じものであることは、次の様にして分かる。まず (3-14) で定義した \(e\) を下の (5-25) の様に \(e'\) と書くと、\(e' ≦ e\) であることはそこでの証明から明らかであるが、同じことは以下の様にしても証明出来る。

\(h > 0\) に対して

\[ e^h = 1+h+\frac{h^2}{2!} +\frac{h^3}{3!}+ ... > 1+h \quad \hbox{}^\forall h > 0 \tag{5-26} \]

そこで、両辺の log を取り単調増大性を使うと \(\log e^h = h \log e = h\) より、 \(h > \log (1+h)\) だから \(1 > \frac{1}{h} \log (1+h) = \log (1+h)^{\frac{1}{h}}\)。 そこで、 \(\log\) の連続性を使うと

\[ 1 ≧ \log \{\lim_{h→0} (1+h)^{\frac{1}{h}}\} \]

つまり

\[ \lim_{h→0} (1+h)^{\frac{1}{h}} = e' \tag{5-27} \]

とおくと、\(1 ≧ \log e'\)。すなわち、 \( e ≧ e'\) であることが分かる。

問題はこの逆の式、\( e ≦ e'\) を示すことである。そのためには

\[ e^h < (1+h)(1+h^2) \quad \hbox{for} \quad 0 < h < 1 \tag{5-28} \]

を使う。この式は、 \(0 < h < 1\) に対して

\[ e^h = 1+h+\frac{h^2}{2!}+\frac{h^3}{3!}+ ... \\ =1+h+\frac{h^2}{2}+\frac{h^3}{2\cdot 3}+\frac{h^4}{2\cdot 3\cdot 4}+ ... \\ =1+h+\frac{h^2}{2} \left( 1+\frac{h}{3}+\frac{h^2}{3\cdot 4}+ ... \right) \\ < 1+h+\frac{h^2}{2} \left\{ 1+\frac{h}{2}+\left(\frac{h}{2}\right)^2 +\left(\frac{h}{2}\right)^3+ ... \right\} \\ =1+h+\frac{h^2}{2} \frac{1}{1-\frac{h}{2}}=1+h+\frac{h^2}{2-h} \\ =(1+h) \left( 1+\frac{h^2}{(1+h)(2-h)} \right) \]

しかるに

\[ (1+h)(2-h)=2+h-h^2=2+\frac{1}{4}-\left(h-\frac{1}{2}\right)^2 \\ =\frac{9}{4}-\left(h-\frac{1}{2}\right)^2 > 2 \quad\hbox{for} \quad 0 < h < 1 \]

より (5-28) が従う。

次に (5-28) の対数を取って (5-23) を使うと

\[ h < \log (1+h)(1+h^2) = \log (1+h) + \log (1+h^2) \]

ここで、\( \log (1+h) < h\) で \(h→h^2\) として得られる \(\log (1+h^2) < h^2\) 使うと

\[ h < \log (1+h) + h^2 \\ 1 < \frac{1}{h} \log (1+h) + h \\ 1 < \log (1+h)^{\frac{1}{h}} + h \]

そこで、\(h→0\) として対数関数の連続性から

\[ 1≦ \log \lim_{h→0} (1+h)^{\frac{1}{h}} = \log e' \]

すなわち、\(e' ≧ e\) が導ける。結局、\(e'=e \) となる。(証明終わり)

最後に \(\log a\) の微分は (5-25) を用いて \[ \frac{d\ \log a}{d\ a} = \lim_{h→0} \frac{\log (a+h)-\log a}{h} \\ = \lim_{h→0} \frac{\log \left(1+\frac{h}{a}\right)}{h} = \lim_{h→0} \log \left(1+\frac{h}{a}\right)^{\frac{1}{h}} \\ = \log \lim_{n→\infty} \left(1+\frac{1}{na}\right)^n = \log e^{\frac{1}{a}} \\ = \frac{1}{a} \tag{5-29} \]

となる。


微分

ある領域 \( (a,b) \) で定義された連続関数 \(y=f(x)\) が \(x\in (a, b)\) で微分可能とは、極限

\[ \lim_{h→0} \frac{f(x+h)-f(x)}{h} = f'(x) \tag{6-1} \]

が有限確定であることをいう。(図6-1 参照) ここに、\(h\) の極限は \(x\) の正負から取った時にそれら二つの極限が等しいことを要請する。すなわち、\(h→0\pm\) のことである。もとの関数の微分を表わす \(f'(x)\) という記号は、\(f^{(1)}(x)\) とか \(\frac{d f(x)}{d x}, \frac{d y}{d x}, f', y'\) とか色々な記法が用いられる。特に

\[ \frac{dy}{dx} = \lim_{\Delta x→0} \frac{\Delta y}{\Delta x} \tag{6-2} \]

という記法は、\(x\)-\(y\) 直交座標で \(x, y\)-軸方向の増分 \(\Delta x=x'-x, \Delta y=y'-y\) の比の無限小極限が局所的な傾きそのものであることを端的に表わしている点で大変興味深い。

図6-1: 関数 \(y=f(x)\) の微分の定義、https://rikeilab.com から転写


元の関数 \(f(x)\) が各点 \(x\) で微分可能の時、そこから導かれた新しい関数 \(f(x)'\) を導関数という。\(f(x)\) が微分可能であっても、導関数は一般には微分可能であるとは限らない。それどころか、連続ですらない場合もあり得る。特に \(f'(x)\) が存在してかつ連続である時、元の関数 \(f(x)\) を連続的微分可能という。更にもし、\(f'(x)\) が再び連続でかつ微分可能の時、その導関数を元の関数 \(f(x)\) の二階微分とか二階導関数と言って \(f"(x), f^{(2)}(x)\) とか \(\frac{d f'(x)}{d x} = \frac{d^2 f(x)}{{d x}^2}\) と書く。更に高階の導関数は漸化式

\[ f^{(n)}(x) = \frac{d f^{(n-1)}(x)}{d x} \\ \frac{d^n f(x)}{{dx}^n} = \frac{d}{dx} \frac{d^{n-1} f(x)}{{dx}^{n-1}} \quad (n=1, 2, ... ) \tag{6-3} \]

によって定義される。ここに、\(f^{(0)}(x)=\frac{d^0 f(x)}{d^0}=f(x)\) である。

(6-1) で定義される傾きは、グラフの曲線の接線の傾きであってあくまでも局所的な意味しか持たない。例えば \(x=x_0\) で \(f(x_0)=0\)、すなわち接線の傾きが 0 であることは、\(x_0\) の周りの小さい近傍 (開区間) \(V=(x_0-h, x_0+h)\) with \(h > 0\) で \(f(x)\) の値がほとんど一定で \(f(x_0)\) の値に近いことを意味している。その局所的な振舞いを更に詳しく知るためには、\(f'(x)\) の \(V\) での振舞いを知る必要がある。例えば、\(f'(x)\) が \(x=x_0-h\) から \(x=x_0+h\) と変わる間に負から正と符号を変えるとすると、\(f(x)\) は減少から増大へと接線の傾きを転じる。従ってこの場合は、\(f(x)\) は \(x_0\) で最小で \(f(x_0)\) は最小値である。(図6-2 参照) 同様に \(f'(x)\) が正から負に符号を変えれば、\(f(x_0)\) は最大値 である。もう一つの場合は、\(f'(x_0)=0\) ではあるが \(x_0\) の近傍では正か負の定符号で \(f'(x)\) の最大、最小値になっている場合である。この場合には \(f"(x_0)=0\) であって \(x_0\) は \(f(x)\) の変曲点と呼ばれる。まとめると

\[ f(x_0) \ \hbox{最小値} : \quad f'(x_0)=0 \quad \hbox{and} \quad f"(x_0) > 0 \\ f(x_0) \ \hbox{最大値} : \quad f'(x_0)=0 \quad \hbox{and} \quad f"(x_0) < 0 \\ f(x) \ \hbox{の変曲点}\ x_0 : \quad f'(x_0)=0 \quad \hbox{and} \quad f"(x_0) = 0 \tag{6-4} \]

図6-2: \(f'(x)=0\) の時の \(f(x)\) の振舞い


二つの微分可能関数 \(f(x), g(x)\) に対して、その和差や積商も (それらに意味のある限り) 微分可能であり次の公式が成り立つ。

\[ (f \pm g)' = f' \pm g' \\ (f g)' = f' g + f g' \\ \left( \frac{f}{g} \right)' = \frac{f' g - f g'}{g^2} \tag{6-5} \]

例えば、(6-2) で \(y→\frac{1}{y}\) として

\[ \Delta \frac{1}{y} = \frac{1}{y'}-\frac{1}{y} = \frac{y-y'}{yy'} \\ → -\frac{y'-y}{y^2} = -\frac{\Delta y}{y^2} \]

より

\[ \left(\frac{1}{y}\right)' = - \frac{y'}{y^2} \tag{6-6} \]

これと (6-5) の積の公式を使って、商の公式が得られる。

もう一つの重要な公式は、「合成関数の微分公式」である。今微分可能な関数 \(y=f(x)\) ともう一つの微分可能な関数 \(x=\varphi (t)\) があったとする。\(x\) を \(f(x)\) に代入して得られる \(t\) の関数 \(y=f(\varphi (t))\) を「合成関数」という。合成関数の \(t\) に関する微分は

\[ \frac{d y}{d t} = f'(\varphi (t)) {\varphi}' (t) \tag{6-7} \]

により与えられる。実際

\[ \frac{d y}{d t} = \lim_{k→0} \frac{f(\varphi (t+k))-f(\varphi (t))}{k} \\ = \lim_{k→0} \frac{f(\varphi (t+k))-f(\varphi (t))}{\varphi (t+k)-\varphi (t)} \frac{\varphi (t+k)-\varphi (t)}{k} \]

だが、\(\varphi (t+k)-\varphi (t) = h → 0 \) for \(k→0\) より

\[ \frac{d y}{d x} = \lim_{k, h→0} \frac{f(\varphi (t) + h)-f(\varphi (t))}{h} \frac{\varphi (t+k)-\varphi (t)}{k} \\ = f'(\varphi (t)) {\varphi}' (t) \]

これを

\[ \frac{d y}{d t} = \frac{d y}{d x} \frac{d x}{d t} \tag{6-8} \]

と書くと分かり良い。\(\frac{d y}{d x}\) を、あたかも分数の様に考えるのである。この様な微分記号を Leibniz の微分記号という。一方、Newton は時間の関数としての座標 \(x(t)\) の時間微分である速度 \(v(t)\) を、\(x\) の上に点 (dot) を打って \(v(t)=\dot{x}(t)\) で表わした。

もう一つの便利な公式は、\(y=f(x)\) の逆関数 \(x=g(y)\) に関するものである。次の公式が成り立つ。

\[ \frac{d y}{d x} \frac{d x}{d y} = 1 \tag{6-9} \]

これは、合成関数の微分の公式 (6-7) で \(x=\varphi (t)\) を \(x=g(y)\) と変えて簡単に得られる。(あるいは、(6-8) で \(dt→dy\) とする。) \(\frac{d y}{d y} = 1\) だから、(6-9) が成り立つ。例えば、\(a=e^x\) の逆関数は \(x=\log a\) だから

\[ \frac{d a}{d x} \frac{d x}{d a} = 1 \]

ここに、(5-19) より \(\frac{d a}{d x} = \frac{d e^x}{d x} = e^x = a\) だから

\[ \frac{d \log a}{d a} = \frac{1}{a} \tag{6-10} \]

すなわち、(5-29) と同じ結果が得られる。


(例-1) \(n\) を整数として \(f(x)=x^n\) の微分は \(f'(x)=n x^{n-1}\)、つまり

\[ \frac{d x^n}{d x} = n x^{n-1} \quad \hbox{for} \quad n \in \boldsymbol{Z} \tag{6-11} \]

例えば、\(n\) が自然数の時は二項定理を用いて

\[ (x+h)^n=x^n+nx^{n-1}h+\frac{n(n-1)}{2} x^{n-2}h^2+ ... +h^n \]

だから

\[ f'(x)=\lim_{h→0} \frac{(x+h)^n-x^n}{h} \\ =\lim_{h→0} \left\{ nx^{n-1}+\frac{n(n-1)}{2} x{n-2}h+ ... +h^{n-1} \right\} \\ =nx^{n-1} \quad \hbox{for} \quad n=1, 2, 3, ... \]

\(n=0\) の時は、\(x=0\) 以外 \(x^0=1\) だから \(f'(x)=0\)。また、\(n\) が負の整数の時は、\(m=-n=1, 2, ... \) として (6-6) を用いると

\[ (x^n)'=\left(\frac{1}{x^m}\right)'=-\frac{(x^m)'}{x^{2m}} \\ =-\frac{mx^{m-1}}{x^{2m}}=-m x^{-m-1}=n x^{n-1} \]

となって、この場合にも (6-11) が正しいことが分かる。


(例-2) 一般の指数関数と対数関数

\(a > 0\) で \(a \neq 1\) の時、合成関数の微分を用いて

\[ \frac{d a^x}{d x}=\frac{d e^{x\log a}}{d x}=e^{x\log a} \log a =a^x \log a \tag{6-12} \]

また、自然対数 \(\log x\) に対して \(y=a^x\) の逆関数を \(x=\log_a y\) で定義すると、\(\log y=x\log a\) より \(\log_a y=\frac{\log y}{\log a}\)。そこで \(y→x\) に変えて

\[ \frac{d \log_a x}{d x} = \frac{1}{\log a} \frac{d \log x}{d x} \\ =\frac{1}{x\log a} \tag{6-13} \]


(例-3) (例-1) の (6-11) で \(n\) は自然数、ないしは整数と仮定したが、これは一般の実数 \(a \ in \boldsymbol{R}\) にまで一般化出来る。しかし、その時は \(x > 0\) を仮定しなければならない。そうでないと、一般には \(x^a\) は複素数になる。その時

\[ \frac{d x^a}{d x} = a x^{a-1} \quad \hbox{for} \quad x > 0 \tag{6-14} \]

が成り立つ。

(証明) \(x > 0\) として \(x^a=e^{a\log x}\) の微分に合成関数の微分法を適用すると

\[ \frac{d x^a}{d x}=\frac{d e^{a\log x}}{d a\log x} \frac{d a\log x}{d x} \\ =e^{a\log x} \frac{a}{x}=x^a \frac{a}{x}=a x^{a-1} \]

(証明終わり)

(例-3) 三角関数

複素変数の指数関数 \(e^z\) を (5-6) の \(\exp z\) で定義する。すなわち

\[ e^z = \exp z = 1+\frac{z}{1!}+\frac{z^2}{2!}+\frac{z^3}{3!}+ ... \tag{6-15} \]

\(z→iz\) と変えて、項を並び替えると

\[ e^{iz}= \left\{ 1-\frac{z^2}{2!}+\frac{z^4}{4!}- ... \right\} \\ + i \left\{ \frac{z}{1!}-\frac{z^3}{3!}+\frac{z^5}{5!}- ... \right\} \tag{6-16} \]

\(e^{iz}\) は \(e^z\) と同様に全複素平面で絶対一様収束するので、項の順序を自由に変えても良い。そこで、(6-16) を

\[ e^{iz} = \cos z + i \sin z \tag{6-17} \]

と書くと

\[ \cos z = 1-\frac{z^2}{2!}+\frac{z^4}{4!}- ... \\ \sin z = \frac{z}{1!}-\frac{z^3}{3!}+\frac{z^5}{5!}- ... \tag{6-18} \]

が得られる。これらは、複素変数の sine, cosine 関数である。これらもまた、絶対一様収束であり連続かつ無限回微分可能な整関数である。同様な性質は

\[ \frac{\sin z}{z} = 1-\frac{z^2}{3!}+\frac{z^4}{5!}+ ... \tag{6-19} \]

等についても成り立っている。また、(6-17) を 「Euler の公式」という。\(z→x\) と実数に制限すると、(6-17) は

\[ e^{ix} = \cos x + i \sin x \tag{6-20} \]

一般には、この公式を「Euler の公式」という。複素平面では、\(z=e^{ix}\) が満たす \(|z|^2=zz*=1\) は半径 1 の単位円を表わす。sine, cosine 関数で書くと、これはピタゴラスの定理

\[ (\cos x)^2+(\sin x)^2=1 \tag{6-21} \]

である。(6-20) を逆に表わすと

\[ \cos x = \frac{e^{ix}+e^{-ix}}{2} = 1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}- ... \\ \sin x = \frac{e^{ix}-e^{-ix}}{2i} = x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}- ... \tag{6-22} \]

これを微分すると

\[ \frac{d \cos x}{d x} = - \sin x \quad , \quad \frac{d \sin x}{d x} = \cos x \tag{6-23} \]

が得られる。

(6-20) を使うと、指数関数の加法定理から三角関数の加法定理を導くことが出来る。(「代数」と「幾何」の項参照) また、ここでは詳しい証明は省略するが、三角関数の加法定理を使って (6-20) の \(e^{ix}\) は周期 \(2\pi\) を持つ \(x\) の周期関数であることを示すことが出来る。ここから、単位円上にある \(z=e^{ix}\) の \(x\) は極座標の偏角をラジアンで測ったものであることが分かる。


(例-4) 双曲線関数 (Hypabolic functions)

\[ \cosh x = \frac{e^x+e^{-x}}{2} = 1+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}+ ... \\ \sinh x = \frac{e^x-e^{-x}}{2} = x+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}+ ... \\ \tanh x = \frac{\sinh x}{\cosh x} = \frac{e^x-e^{-x}}{e^x+e^{-x}} \tag{6-24} \]

で定義される関数を「双曲線関数 (Hyperbolic functios)」という。(図6-3 参照) ここに

\[ (\cosh x)^2-(\sinh x)^2=1 \tag{6-25} \]

が成り立つ。(6-22) の微分は

\[ \frac{d \cosh x}{d x} = \sinh x \\ \frac{d \sinh x}{d x} = \cosh x \\ \frac{d \tanh x}{d x} = \frac{1}{(\cosh x)^2} \tag{6-26} \]

である。双曲線関数で \(x→z\) としたものも全複素平面で定義された整関数である。双曲線関数の逆関数も三角関数の逆関数と同様に定義出来る。

図6-3: 双曲線関数 (Hyperbolic function) 式 (6-24) のグラフ


有限閉区間 \([a, b]\) で連続、\((a,b)\) で微分可能な関数 \(f(x)\) に対して、次の諸定理が成り立つ。

(1) 「ロル (Roll) の定理」\(f(a) = f(b)\) の時、\(\hbox{}^\exists \xi\in (a, b)\) があって \(f'(\xi)\) が成り立つ。

(2) 「(微分法の) 平均値の定理」

\[ \frac{f(b)-f(a)}{b-a} = f'(\xi) \quad \hbox{for} \quad \hbox{}^\exists \xi \in (a, b) \tag{6-27} \]

まず (1) であるが、もし \(f(x)\) が \([a, b]\) で一定ならば \(f'(x)\) は \((a,b)\) で常に 0 だから、明らかである。もし一定でないなら、\(f(x)\) は閉区間 \([a,b]\) で連続だから、「連続関数」の項の (2) より \([a,b]\) で最大値か最小値をもち、その値は \(f(a)=f(b)\) ではない。すなわち、\(\hbox{}^\exists \xi \in (a, b)\) があって、そこで \(f(\xi)\) は最大値が最小値になり (6-4) から \(f'(\xi)=0\) となる。次に (2) は、\(F(x)=f(x)-Ax\) として \(F(a)=F(b)\) となる様に \(A\) を決め (1) を適用する。 \(A=\frac{f(b)-f(a)}{b-a}\) ととれば、\(F'(x)=f'(x)-A\) より \(F'(\xi)=0\) は \(A=f'(\xi)\) となり (2) が従う。

(2) で \(a=x, b=x+h\) とすると、微分可能な関数に対して

\[ f(x+h)=f(x)+f'(x+\theta h) h \quad \hbox{with} \quad 0 < \theta < 1 \tag{6-28} \]

が成り立つ。これも平均値の定理という。

(1), (2) と同じ条件のもとに、次の定理が成り立つ。

(3) 「Cauchy の平均値の定理」

\[ \frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)} = \frac{f'(\xi)}{g'(\xi)} \quad \hbox{for} \quad \hbox{}^\exists \xi \in (a, b) \tag{6-29} \]

ここに、(i) \(g(b) \neq g(b)\) かつ (ii) \(g'(x)\) と \(f'(x)\) は \((a, b)\) で同時に 0 にならないとする。

(証明) \( F(x)=\lambda f(x)-\mu g(x)\) として、\(F(a)=F(b)\) となる様に \(\lambda, \mu\) を決める。例えば、\(\lambda=(g(b)-g(a)), \mu=(f(b)-f(a))\) と取れば良い。

\[ F(x)=(g(b)-g(a)) f(x) - (f(b)-f(a)) g(x) \\ F(a)=F(b)=f(a) g(b) - g(a) f(b) \\ F'(x)=(g(b)-g(a)) f'(x) - (f(b)-f(a)) g'(x) \]

そこで、(1) より \(F'(\xi)=0\) となる \(\xi\in (a, b)\) があるから (6-29) が成り立つ。(\(g'(\xi)\) が 0 にならないのは、もしそうであれば (i) より \(f'(\xi)=0\) となつて (ii) に反するからである。(証明終わり)

(6-29) で特に \(f(a)=g(a)=0\) の時、\(b\) を \(x\) に変えて \(x→a\) とすると

\[ \lim_{x→a} \frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x→a}\frac{f'(x)}{g'(x)} \tag{6-30} \]

という大変有用な公式が得られる。これは、\(x→a\) の極限が \(\frac{0}{0}\) の不定形なるものについて、その代わりに (存在すれば) \(\frac{f'(a)}{g'(a)}\) を考えれば良いことを示している。もしこれも \(\frac{0}{0}\) の不定形になれば、(\(f"(x), g"(x)\) の存在を仮定して) \(\frac{f"(a)}{g"(a)}\) を考えれば良い。(6-30) をロピタル (l'Hopital) の規則という。これは、極限が \(\frac{\infty}{\infty}\) の不定形の場合にも拡張出来る。

(例-5)

\[ \lim_{x→0} \frac{\sin x}{x} = \lim_{x→0} \frac{\cos x}{1} = 1 \]

(例-6)

\[ \lim_{x→\infty} \frac{\log x}{x^n} = \lim_{x→\infty} \frac{1}{nx^n} = 0 \quad (n=1, 2, ... ) \]

最後に Taylor 展開について説明する。今 \([a, b]\) で定義された連続関数 \(f(x)\) が \(n\)-階まで連続的微分可能とする。(\(a, b\) 等区間の端での微分係数は定義域の内部から取った極限の値とする。) この時、次のいわゆる「Taylor 展開公式」が成り立つ。

\[ f(x)=f(a)+\frac{f'(a)}{1!}(x-a)+\frac{f^{(2)}(a)}{2!}(x-a)^2+ ... \\ +\frac{f^{(n-1)}(a)}{(n-1)!}(x-a)^{(n-1)} +\frac{f^{(n)}(\xi)}{n!}(x-a)^n \\ =\sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k +\frac{f^{(n)}(\xi)}{n!}(x-a)^n \\ \hbox{for} \quad x \in [a, b] \quad \hbox{and} \quad \hbox{}^\exists \xi \in (a, x) \tag{6-31} \]

まず \(n=1, 2, 3, ... \) として、\(A\) を

\[ f(b)=\sum_{k=0}^{n-1} f^{(k)}(a) \frac{(b-a)^k}{k!} +A\frac{(b-a)^n}{n!} \tag{6-32} \]

となる様に定義する。以下では、\(f^{(n)}(\xi)=A\) となる \(\xi \in (a, b)\) が存在することを示す。そのためには、 \([a, b]\) で定義された連続かつ微分可能関数 \(g(x)\) を次の様に定義する。

\[ g(x)=f(b)-\sum_{k=0}^{n-1} f^{(k)}(x) \frac{(b-x)^k}{k!} -A \frac{(b-x)^n}{n!} \]

\(g(x)\) は \(A\) の定義から \(g(a)=0\)、また明らかに \(g(b)=0\) を満たす。更に、\(g'(x)\) を計算すると

\[ g'(x)=-\sum_{k=0}^{n-1} f^{(k+1)}(x) \frac{(b-x)^k}{k!} \\ +\sum_{k=1}^{n-1} f^{(k)}(x)+A \frac{(b-x)^{n-1}}{(n-1)!} \\ = \frac{(b-x)^{n-1}}{(n-1)!} \left( A-f^{(n)}(x) \right) \]

そこで (1) のロルの定理を用いて、\(g'(\xi)=0\) となる \(\xi \in (a, b)\) が存在する。そこで、\( (b-\xi)^{n-1} \neq 0\) より \(A=f^{(n)}(\xi)\) が成り立つ。 この式と (6-32) は、(6-31) で \(x=b\) としたものである。(6-31) は、\(x \in [a, b]\) として、\(b\) を \(x\) と読み替えて導かれる。

(6-31) で \(a=0\) の時を Maclaurin 展開という。

\[ f(x)=\sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k)}(0)}{k!} x^k +\frac{f^{(n)}(\theta x)}{n!} x^n \\ \hbox{for} \quad 0 < \hbox{}^\exists \theta < 1 \tag{6-33} \]

例としてはしては、指数関数 (5-14) や 三角関数 (6-22)、双曲線関数 (6-24) は \(n→\infty\) の時の Maclaulin 展開である。また、対数関数 \(f(x)=\log (1+x)\) に対しては

\[ f'(x)=\frac{d \log (1+x)}{d x}=\frac{1}{1+x} \\ f^{(2)}(x)=-\frac{1!}{(1+x)^2} \\ f^{(3)}(x)=\frac{2!}{(1+x)^3} \\ ... \\ f^{(n)}(x)=(-1)^{(n-1)} \frac{(n-1)!}{(1+x)^n} \]

より

\[ \log (1+x)=x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}- ... +(-1)^{(n-1)} \frac{x^n}{n} \\ +(-1)^n \frac{1}{n+1} \left( \frac{x}{1+\theta x} \right)^{(n+1)} \quad \hbox{with} \quad 0 < \theta < 1 \tag{6-34} \]

(6-34) の最後の項は、\(0 ≦ x ≦ 1\) の時 \(0 ≦ \left( \frac{x}{1+\theta x}\right) < 1\) であるので、 \(n→\infty\) で 0 に近づく。そこで

\[ \log (1+x)=x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}+ .... \quad \\ \hbox{for} \quad 0 ≦ x ≦ 1 \tag{6-35} \]

この級数は、条件収束ではあるが \(x=1\) でも収束する。すなわち、(6-34) で \(x=1\) とおいて \(n→\infty\) とすることで

\[ 1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}- ... = \log 2 \tag{6-36} \]

が導かれる。これは、以前条件収束級数のところで挙げた例の一つである。 (6-35) よりもっと精密な剰余項の見積もりを後で与える。((7-38) 参照)


積分

積分法は微分法の逆演算である。微分が曲線の傾きに関係しているのに対し、積分は図形の面積とか体積とかを求めるのに使われる。「幾何」の項で円周と円の面積を求めるためのアルキメデスの方法を紹介したが、ここで学ぶ積分の定義はそれに類似している。微積分法の創始者の1人である Newton は微分・積分を液体の流率・流量という言葉で表わした。微分可能性を議論する時にはその関数の連続性を仮定しているが、積分はたとえその関数が連続でなくても意味がある場合がある。最も一般的にはある領域で定義された関数の有界性だけを仮定する。ここで扱う積分を Riemann 積分というが、後でみる様に連続関数は全て Riemann 積分可能である。

まず、\(f(x)\) をある閉区間 \(I=[a, b]\) で定義された有界関数として、その積分 (定積分という) を考える。\([a, b]\) をその間にある \((n-1)\) 個の点 \(x_1, x_2, ... ,x_{n-1}\) で \(n\) 分割して

\[ \hbox{分割}\ I(\Delta): [a, b]=[x_0, x_1]\cup [x_1, x_2]\cup ... \\ \cup [x_{n-1}, x_n] \hbox{with} \quad a=x_0 < x_1 < x_2 < ... < x_n=b \tag{7-1} \]

これを、閉区間 \(I\) の分割 \(I(\Delta)\) という。各部分区間 \(I_i=[x_{i-1}, x_i] \quad (i=1, 2, 3, ... ,n)\) には、有限の長さ \(\delta_i=(x_i-x_{i-1}) > 0\) とその範囲での上限、下限が存在する。すなわち

\[ M_i=\sup_{\xi\in [x_{i-1}, x_i]} f(\xi) \quad , \quad m_i=\inf_{\xi\in [x_{i-1}, x_i]} f(\xi) \\ \hbox{and} \quad m_i ≦ f(\xi) ≦ M_i \quad \hbox{}^\forall \xi \in [x_{i-1}, x_i] \tag{7-2} \]

とする。また、\(\delta_i \ (i=1, 2, ... ,n)\) の最大値を \(\delta (\Delta) > 0\) とする。

\[ \delta (\Delta) = \max_{i=1, 2, ... ,n} \delta_i = \max_{i=1, 2, ... ,n} (x_i-x_{i-1}) \tag{7-3} \]

この様な一つの分割 \(I(\Delta)\) に対して、次の有限和を考える。

\[ S_{\Delta} = \sum_{i=1}^n M_i \delta_i \\ s_{\Delta} = \sum_{i=1}^n m_i \delta_i \tag{7-4} \]

明らかに、\(s_{\Delta} ≦ S_{\Delta}\) が成り立つ。

ここで、各分点 \(x_0, x_1, x_2, ... ,x_n\) の間に新しく余分の点を付け加えて更に細分割したものを分割 \(I(\Delta)\) の再分割と言って \(I(\Delta')\) で表わす。すると

\[ s_{\Delta} ≦ s_{\Delta'} ≦ S_{\Delta'} ≦ S_{\Delta} \tag{7-5} \]

であることもほぼ明らかである。この様にして、細分割を繰り返して行くと有界単調列が出来るので、次の極限が存在する。

\[ \lim_{\delta(\Delta)→0} s_{\Delta} = s \quad , \quad \lim_{\delta(\Delta)→0} S_{\Delta} = S \tag{7-6} \]

かつ

\[ s_{\Delta} ≦ s_{\Delta'} ≦ s ≦ S \\ ≦ S_{\Delta'} ≦ S_{\Delta} \tag{7-7} \]

極限 \(s, S\) は \(\delta→0\) となる、ある分割とその細分割ごとに有限確定と決まったのであるが、問題は、それがまた別の分割とその再分割に対してもまた同じ値になるかということである。それを示すには、二つの異なった分割 \(\Delta\) と \(\Delta'\) を合併した分割 \(\Delta"=\Delta \cup \Delta'\) を考える。\(\Delta"\) は、\(\Delta\) と \(\Delta'\) の一つの再分割である。\(\Delta, \Delta', \Delta"\) から出発して、再分割を繰り返して得られる極限をそれぞれ \(s, s',s"\) とすると

\[ s ≦ s" \quad , \quad s' ≦ s" \tag{7-8} \]

が得られる。また、\(\Delta\) の再分割の中に \(\Delta"\) の再分割を埋め込むことが出来るので

\[ s" ≦ s \tag{7-9} \]

従って、\(s=s"\) が得られる。同様に \(s'=s"\) も示される。もっと厳密な証明は、高木貞治著「解析概論」94ページにある。この様にして、極限 \(s, S\) は \(\delta→0 \) でありさえすれば分割の仕方に拘らず一定の値に確定することが分かる。これを、有界関数 \(f(x)\) に対する 「Darboux の定理」という。

しかし、有界関数というだけでは \(s=S\) を示すことは出来ない。特にこれが成り立つ時、\(f(x)\) は Riemann 積分可能と言って次の \(s=S=I\) で表わす。

\[ I=\lim_{\delta→0} \sum_{i=1}^n f(\xi_i) (x_i-x_{i-1}) = \int_a^b f(x) dx \tag{7-10} \]

ここに、\(\xi_i\) は分割 \(I(\Delta)\) の \(\xi_i\in [x_{i-1}, x_i]\) を満たす任意の値で良い。このことは、(7-10) の有限和を \(I_{\Delta}\) として

\[ s_{\Delta} ≦ I_{\Delta} ≦ S_{\Delta} \tag{7-11} \]

であることから容易に示せる。また簡単な積分可能条件としては、区間 \(I_i\) における \(|f(\xi')-f(\xi)|\) for \(\xi', \xi \in [x_{i-1}, x_i]\) の増加分を \(v_i\) として \(\sum_i v_i \delta_i\) を作った時に \(\delta→0\) で \(\sum_i v_i \delta_i → 0\) となるか確かめれば良い。(各自証明せよ。)

実質的応用としては、(7-10) での分割の仕方を \(x_i=a+\frac{i}{n}(b-a)\) (\(i=0, 1, ... ,n\) とし \(\xi_i\) を \(\xi_i=x_{i-1}\) や \(\xi_i=x_i\) に選び、\(\delta=\frac{1}{n}(b-a), n→\infty\) として極限が存在するかどうか調べれば充分である。


(練習問題-4) 上の方法で \(f(x)=x\) と \(f(x)=x^2)\) の定積分 (7-10) を求めよ。特に、\(\xi_i\) を \(x_{i-1}\) とした時と \(x_i\) とした時で、結果が同じになることを確かめよ。(ヒント: \(\delta=\frac{1}{n}(b-a)\) として、\(x_i=a+i\delta\)。そこで、\(f(x)=x, \xi_i=x_i\) の時は

\[ I=\lim_{n→\infty} \sum_{i=1}^n (a+i\delta) \delta \]

ここで、(3-2) の公式で \(i\) の和を取り、最後に \(n→\infty\) の極限を取る。


積分可能判定条件として、「挟み込み法」にならって (7-4) の差を取り

\[ \sum_{i=1}^n (M_i-m_i) \delta_i → 0 \quad \hbox{for} \quad \delta → 0 \tag{7-12} \]

この様にして、次の二つの簡単な命題を示すことが出来る。

(1) \([a, b]\) で単調増大 (あるいは単調減少) な関数 \(f(x)\) は積分可能である。

(2) \([a, b]\) で連続な関数 \(f(x)\) は積分可能である。

まず (1) は

\[ 0 ≦ \sum_{i=1}^n (f(x_i)-f(x_{i-1})) \delta_i ≦ \sum_{i=1}^n (f(x_i)-f(x_{i-1}) \delta \\ = (f(b)-f(a)) \delta → 0 \quad (\delta → 0) \tag{7-13} \]

(2) については、閉区間で連続な関数は一様連続であるから

\[ \hbox{}^\forall \varepsilon \quad \hbox{}^\exists \delta \\ \ll |f(\xi')-f(\xi)| < \varepsilon \quad \hbox{}^\forall |\xi'-\xi| < \delta \gg \tag{7-14} \]

そこで、(7-12) の \(\delta\) を充分小さくとって全ての部分区間 \([x_{i-1}, x_i]\) が (7-14) の区間に含まれる様にすると

\[ \sum_{i=1}^n (M_i-m_i) \delta_i ≦ \varepsilon \sum_{i=1}^n \delta_i \\ = \varepsilon (b-a) \tag{7-15} \]

ここに \(\varepsilon\) は任意に小さく取れるから (7-12) が成り立つ。(証明終わり)

積分 (7-10) で、積分区間 \([a, b]\) を \(x \in (a, b)\) を用いて \([a, x]\) と\([x, b]\) に分けると

\[ \int_a^b f(x) dx = \int_a^x f(x) dx + \int_x^b f(x) dx \tag{7-16} \]

が成り立つ。ここで \(f(x) dx\) の \(x\) は (7-10) の積分記号内の \(x\) と同様、単なる積分変数であって \(t\) 等何でも良い。ここでは、\(x\) は積分範囲を指定する単なる変数である。また、積分の上限 \(b\) と下限 \(a\) をひっくり返すと \((x_i-x_{i-1})→(x_{i-1}-x_i)=-(x_i-x_{i-1})\) と符号が変わるので

\[ \int_b^a f(x) dx = - \int_a^b f(x) dx \tag{7-17} \]

となる。これらを使うと、例えば

\[ \int_x^b f(x) dx = \int_a^b f(x) dx - \int_a^x f(x) \\ = \int_x^a f(x) dx + \int_a^b f(x) dx \tag{7-18} \]

等が成り立つ。(7-16) や (7-18) を積分区間の加法則 (additivity) という。

(7-16) で任意の定数 \(C\) を用いて

\[ F(x)=\int_a^x f(x) dx + C \tag{7-19} \]

としたものを不定積分、(7-10) を定積分という。ここで \(a_0 \in [a, b]\) として

\[ F(x)=\int_{a_0}^x f(x) dx + \int_a^{a_0} f(x) dx + C \\ =\int_{a_0}^x f(x) dx + C' \tag{7-20} \]

と新しく任意定数 \(C'\) を導入すると、 \(a_0\) はなんでも良いからそれらを省略して不定積分を

\[ F(x)= \int f(x) dx \tag{7-21} \]

と書く。不定積分には任意定数だけの不定性がある。

図7-1: 関数 \(f(x)\) の定積分 \(S(x)=\int^x_a f(t)\ d t \) の定義、rikeilab.com から転写


(7-19) で \(x→a\) として、 便宜的に \( F(a) = \lim_{x→a} F(x)\), \(\lim_{x→a}\int_a^x f(x) dx=\int_a^a f(x) dx=0 \) とおくと \(C=F(a)\) より

\[ F(x)-F(a)=\int_a^x f(x) dx \tag{7-22} \]

同様に、\(\lim_{x→b} F(x)=F(b)\), \(\lim_{x→b}\int_x^b f(x) dx=0\) とする。 \(f(x)\) は有界関数だから \(F(x)\) は当然、連続関数である。従って、\(F(x)\) は \(x\in [a, b]\) で連続である。しかも、\(f(x)\) が連続関数であることを仮定すると、 \(F(x)\) は \(x\in (a, b)\) で微分可能である。実際、(7-22) で \(a\) を \(x\)、\(x\) を \(x+h\) として、積分変数を \(x\) から \(\xi\) に変えると

\[ \frac{F(x+h)-F(x)}{h}=\frac{1}{h} \int_x^{x+h} f(\xi) d \xi \tag{7-23} \]

ここで、\(h→0\) とすると \(f(x)\) の連続性から \(f(\xi)→f(x)\) for \(\xi \in [x, x+h]\) より

\[ F'(x)=\lim_{h→0} \frac{F(x+h)-F(x)}{h} \\ = f(x) \frac{1}{h} \int_x^{x+h} d \xi = f(x) \tag{7-24} \]

不定積分 \(F(x)\) を元の関数 \(f(x)\) の原始関数という。これらは多くの場合、微分可能関数の微分公式から得られる。(「原始関数の表」参照) すなわち、連続関数 \(f(x)\) の原始関数は微分可能であり、その導関数は元の関数 \(f(x)\) に等しい。この時、微分法の平均値の定理より

\[ \frac{F(b)-F(a)}{b-a}=f(\xi) \quad \hbox{}^\exists \xi \in (a, b) \tag{7-25} \]

あるいは、(7-22) より

\[ \int_a^b f(x) dx = f(\xi) (b-a) \quad \hbox{}^\exists \xi \in (a, b) \tag{7-26} \]

が成り立つ。これを積分法の平均値の定理という。

積分可能判定条件の (2) で、\([a, b]\) で連続な関数 \(f(x)\) は積分可能であることを示したが、積分区間の加法則 (7-16) を用いると、 \([a, b]\) 内にたとえ有限個の不連続点があったとしてもそれを区分点にとることにより関数は積分可能であることが分かる。その様な関数を「区分的に連続な関数」という。以外では簡単のために、特に断らない限り被積分関数 \(f(x)\) は区分的に連続なる関数と仮定する。

(原始関数の表) 高木貞治著「解析概論」から転写 (7-27)

\begin{array}{c|c} \hline \hbox{導関数} \quad f(x) = F'(x) & \hbox{原始関数} \quad F(x) \\ \hline x^{\alpha} \quad (\alpha \neq -1) & \frac{x^{\alpha+1}}{\alpha+1} \\ \frac{1}{x} \quad (x \neq 0) & \log |x| \\ \frac{1}{1+x^2} & \hbox{Arc}\tan x \\ \frac{1}{1-x^2} \quad (x \neq \pm 1) & \frac{1}{2} \log \left| \frac{1+x}{1-x} \right| \\ \frac{1}{x^2-1} \quad (x \neq \pm 1) & \frac{1}{2} \log \left| \frac{x-1}{x+1} \right| \\ \frac{1}{\sqrt{1-x^2}} \quad (|x| < 1) & \hbox{Arc}\sin x \\ \frac{1}{\sqrt{x^2-1}} \quad (|x| > 1) & \log \left| x+\sqrt{x^2-1} \right| \\ \frac{1}{\sqrt{x^2+1}} \quad (|x| > 1) & \log \left| x+\sqrt{x^2+1} \right| \\ \sqrt{1-x^2} \quad (|x| ≦ 1) & \frac{1}{2} (x\sqrt{1-x^2}+\hbox{Arc}\sin x \\ \sqrt{x^2-1} \quad (|x| ≧ 1) & \frac{1}{2} (x\sqrt{x^2-1}-\log \left| x+\sqrt{x^2-1} \right| ) \\ \sqrt{x^2+1} & \frac{1}{2} (x\sqrt{x^2+1}+\log ( x+\sqrt{x^2+1} ) \\ e^x & e^x \\ a^x \quad (a > 0, a \neq 1) & \frac{a^x}{\log a} \\ \sin x & - \cos x \\ \cos x & \sin x \\ \frac{1}{{\sin}^2 \ x} & - \cot x \\ \frac{1}{{\cos}^2 \ x} & \tan x \\ \tan x & - \log | \cos x | \\ \cot x & \log | \sin x | \\ \hline \end{array}

次の積分の性質は、その定義 (7-10) からほぼ明らかである。 (\(a < b\) として、全ての積分は存在するとする。)

\[ \int_a^b (\alpha f(x)+\beta g(x)) dx \\ = \alpha \int_a^b f(x) dx + \beta \int_a^b g(x) dx \tag{7-28} \] \[ \int_a^b f(x) dx ≧ 0 \quad \hbox{if} \quad f(x) ≧ 0 \quad \hbox{for} \quad \hbox{}^\forall x \in [a, b] \] \[ \int_a^b f(x) dx ≧ \int_a^b g(x) dx \quad \hbox{if} \quad f(x) ≧ g(x) \quad \hbox{for} \quad \hbox{}^\forall x \in [a, b] \]

もし \(f(x)\) が積分可能なら、\(|f(x)|\) も積分可能で

\[ \vert \int_a^b f(x) dx \vert ≦ \int_a^b |f(x)| dx \tag{7-29} \]

が成り立つ。実際、\( ||f(x')|-|f(x)||≦|f(x')-f(x)|\) の関係式を用いると各細分区間 \(I_i\) での \(f(x)\) と \(|f(x)|\) の差分 \(v_i, {v'}_i\) が \(0≦{v'}_i≦v_i\) を満たすことから、\(f(x)\) が可積分なら \(|f(x)|\) も可積分であることが分かる。(この関係式は、 \(|a+b|≦|a|+|b|\) で \(b→(b-a)\) として \(|b|≦|a|+|b-a|\)、つまり \(|b|-|a|≦|a-b|\) 。更に、\(a\) と \(b\) を交換して \(|a|-|b|≦|a-b|\)。双方を合わせて \(||a|-|b||≦|a-b|\) が導かれる。) また (7-29) は、\(f(x)≦|f(x)|\) for \(x\in [a, b]\) から導かれる。

逆に、\(|f(x)|\) が積分可能でも \(f(x)\) は積分可能とはいえない。例えば、 \(x\in [0, 1]\) で定義された関数で \(x\) が有理数の時 1、無理数の時 \(-1\) である関数 \(f(x)\) は \( \int_0^1 |f(x)| dx=1\) であるが、\(f(x)\) は積分可能ではない。

ここでは、これ以上詳しい証明は省略するが、二つの関数の積 \(f(x)g(x)\) や商 \(\frac{f(x)}{g(x)}\) の積分も \(f(x)\) と \(g(x)\) が積分可能であれば、(それが意味のある限り) 積分可能である。特に二つの関数が連続であれば、積と商も (0 で割らない限り) 連続であるので、当然それらは積分可能になる。

(部分積分の公式) 今 \(f(x)\) と \(g(x)\) の双方が連続的微分可能の時

\[ (f(x) g(x))' = f'(x) g(x) + f(x) g'(x) \]

を積分して

\[ \int_a^b f'(x) g(x) dx = [f(x) g(x)]_a^b - \int_a^b f(x) g'(x) dx \tag{7-30} \]

ここに、\([f(x) g(x)]_a^b=f(b) g(b) - f(a) g(a)\) である。

(置換積分) \([a, b]\) で積分可能な関数 \(f(x)\) において、\(x\) が \(t\in [\alpha, \beta]\) で定義された連続的微分可能な関数 \(x(t)\) であり、\(a=x(\alpha), b=x(\beta)\) であるとすると

\[ \int_a^b f(x) dx = \int_{\alpha}^{\beta} f(x(t)) \frac{d x(t)}{d t} dt \tag{7-31} \]

が成り立つ。実際、\(b→x(t), \beta→t\) と変えて \(F(t)=\int_a^{x(t)} f(x) dx\) とすると、合成関数の微分法から

\[ \frac{d F(t)}{d t}=f(x(t)) \frac{d x(t)}{d t} \tag{7-32} \]

ここに \(x(t)\) を \(t\) で微分した関数は連続で有界であることにより、(7-32) は \(t\) で積分可能で

\[ F(t)=\int_{\alpha}^t f(x(t)) \frac{d x(t)}{d t} dt \]

そこで、\(t=\beta\) とおくことにより (7-31) が得られる。(証明終わり)

(例-1) 多項式の積分、指数関数、対数関数の積分

多項式の積分は、微分公式 \(\frac{d x^n}{d x}=n x^{n-1}\) から、不定積分

\[ \int x^n dx =\frac{x^{n+1}}{n+1} + C \tag{7-33} \]

を繰り返し使って求められる。指数関数の積分は

\[ \int e^x dx = e^x + C \\ \int_0^x e^t dt = [e^t]_0^x = e^x-1 \tag{7-34} \]

対数関数の積分は (5-29) から \( \frac{d \log x}{d x}=\frac{1}{x}\) for \(x>0\) より、不定積分は

\[ \log x = \int \frac{1}{x} dx + C \tag{7-35} \]

だが、定積分を求める時には \(x=0\) を避けて計算しなければならない。すなわち \(\log 1=0\) だから

\[ \log (1+x) = \int_1^{1+x} \frac{1}{t} dt = \int_0^x \frac{1}{t+1} dt \quad \\ \hbox{for} \quad x > -1 \tag{7-36} \]

(注意) \(\frac{d \log |x|}{dx}=\frac{1}{x}\) であるが、この場合は複素変数の対数関数を用いる方が良い。

(例-2) 対数関数の Maclaulin 展開

(7-6) で等比級数の公式 (3-3) を用いると

\[ \frac{1}{1+t}=\frac{1-(-t)^n+(-t)^n}{1-(-t)} \\ =1-t+t^2+ ... +(-t)^{n-1}+\frac{(-t)^n}{1+t} \]

これを \(t\) で \(0\) から \(x\) まで積分すると \(x > -1\) として

\[ \log (1+x)=x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}+ ... +(-1)^{n-1}\frac{x^n}{n} +R_n \tag{7-37} \]

ここに

\[ R_n=(-1)^n \int_0^x \frac{t^n}{1+t} dt \quad x > -1 \tag{7-38} \]

そこで \(-1 < x < 1\) の時

\[ |R_n| ≦ \int_0^{|x|} \frac{t^n}{1-|x|} = \frac{|x|^{n+1}}{n+1} \frac{1}{1-|x|} → 0 \quad \hbox{for} \quad n → \infty \]

より

\[ \log (1+x)=x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}+ ... +(-1)^{n-1}\frac{x^n}{n} + ... \\ = \sum_{n=1}^{\infty} (-1)^{n-1} \frac{x^n}{n} \quad \hbox{for} \quad |x| < 1 \tag{7-39} \]

この級数は、収束半径 \(\rho=1\) の絶対一様収束である。

一方、\(x=1\) では (7-38) で \(x=1\) として

\[ R_n = \int_0^1 \frac{t^n}{1+t} dt ≦ \int_0^1 t^n dt = \frac{1}{n+1} → 0 \quad \hbox{for} \quad n→\infty \]

より

\[ \log 2 =1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+ ... +(-1)^{n-1}\frac{1}{n} + ... \tag{7-40} \]

この級数は条件収束である。

最後に \(x=-1\) の時は、(7-39) は発散級数である。


面積、体積等の計算

(円周と円の面積)

極座標を用いると簡単である。半径 \(R\) の円を考えて、図8-1 の様にラジアンで測った微小角 \(\theta\) の扇型を考えると円弧の長さは \(R \Delta \theta\) であるから、円周の長さは

\[ \sum R \Delta \theta → \int_0^{2\pi} R d\theta = R \int_0^{2\pi} d\theta = 2\pi R \tag{8-1} \]

と求まる。一方、扇型の面積は近似的に \(\frac{1}{2} R (R\Delta \theta) = \frac{1}{2}R^2 \Delta \theta\) より

\[ \sum \frac{1}{2} R^2 \Delta \theta → \int_0^{2\pi} \frac{1}{2} R^2 d \theta = \pi R^2 \tag{8-2} \]


図8-1: 半径 \(R\) の円の円周と面積の計算


図8-2: 円の面積の求め方


また別の円の面積の求め方として、二次元直交座標における円の方程式 \(x^2+y^2=R^2\) 使って第一象限の面積の4倍を求めると

\[ S = 4 \int_0^R y\ dx = 4 \int_0^R \sqrt{R^2-x^2} dx \tag{8-3} \]

この積分を、置換積分を用いて求める。\(x=R\sin \theta\) により \(x\) の積分から \(\theta\) の積分に移ると、 \(\frac{dx}{d\theta}=R\cos \theta\) かつ積分の端の値は \(\theta=0\) から \(\frac{\pi}{2}\) であることより

\[ S=4R^2 \int_0^{\frac{\pi}{2}} \sqrt{1-(\sin \theta)^2} \cos \theta d\theta \tag{8-4} \]

ここに被積分関数は、三角関数の倍角公式を用いて

\[ \sqrt{1-(\sin \theta)^2} \cos \theta = (\cos \theta)^2 =\frac{1+\cos 2\theta}{2} \]

より、積分

\[ \int_0^{\frac{\pi}{2}} \cos 2\theta d\theta = \frac{1}{2} [\sin 2\theta]_0^{\frac{\pi}{2}} = 0 \]

を用いると

\[ S=4R^2 \frac{1}{2} \frac{\pi}{2} = \pi R^2 \tag{8-5} \]

が求まる。


この方法は、長径 \(a\) 短径 \(b\) の楕円の面積を求めるためにも使うことが出来る。(図8-2 参照) この楕円の方程式は、\(\left(\frac{x}{a}\right)^2+\left(\frac{y}{b}\right)^2=1\) より \(y=b\sqrt{1-\left(\frac{x}{a}\right)^2}\) より (8-3) に対応する式は

\[ S=4\int_0^a y dx = 4b \int_0^a \sqrt{1-\left( \frac{x}{a}\right)^2} dx \tag{8-6} \]

今度は \(x=a\sin \theta\) として、積分変数変換すると

\[ S=4ab \int_0^{\frac{\pi}{2}} \sqrt{1-(\sin \theta)^2} \sin \theta d\theta = \pi ab \tag{8-7} \]

この式は特別の場合として、\(a=b=R\) の円の場合を含んでいる。


(球の体積と表面積、回転楕円体の体積、円錐の体積)

球の体積は \(x\)-\(y\) 平面での円の方程式を \(x\)- 軸の周りに 360° 回転して得られる。(図8-5 参照) \(x\) における円盤の面積は \(\pi y^2\) なので、これに微小幅 \(\Delta x\) をかけて \(x=0\) から \(x=R\) まで足し上げて 2 倍すると

\[ \sum \pi y^2 \Delta x → 2 \int_0^R \pi y^2 dx \\ = 2 \pi \int_0^R (R^2-x^2) dx \\ = 2 \pi \left[ R^2 x - \frac{x^3}{3} \right]_0^R \\ = 2 \pi \frac{2}{3} R^3 =\frac{4}{3} \pi R^3 \tag{8-8} \]

この半径 \(R\) の球の体積を \(V(R)=\frac{4}{3}\pi R^3\) とすると、この球の表面積 \(S(R)\) は \(V(R)\) を \(R\) で微分して得られる。その訳は、球の体積を極座標であたかもリンゴの皮を剥く様に近似すれば

\[ \sum S(r) \Delta r → V(R) = \int_0^R S(r) dr \tag{8-9} \]

より

\[ S(R) = \frac{d V(R)}{d R} \tag{8-10} \]

となるからである。(図8-3 参照) そこで

\[ S(R)=\frac{d}{dR} \frac{4\pi}{3} R^3 = 4\pi R^2 \tag{8-11} \]

となる。


図8-3: 球の体積と表面積との関係、式 (8-9) 参照


図8-4: アルキメデスの墓標に記された、球とそれを含む円柱の体積と表面積についての関係


既に「幾何」の項で述べた様に、アルキメデスの墓標には半径 \(R\) の球の体積と表面積が図8-4 の様に球を含む半径 \(R\) 高さ \(2R\) の円柱の体積と表面積、\( 2\pi R^3, 6\pi R^2\) の丁度 \(\frac{2}{3}\) になっている事が記されているそうである。

(8-10) と同様な関係は、円周 \(C(R)\) と円の面積 \(S(R)\) に対しても成り立っている。すなわち、 \( C(R)=\frac{d S(R)}{dR}=\frac{d \pi R^2}{dR}=2\pi R\)

球の体積と同様にして、回転楕円体の体積も同様に求められる。すなわちフットボール型の回転楕円体に対して (図8-5 参照)

\[ V(a, b) = 2 \int_0^a \pi y^2 dx = 2 \pi b^2 \int_0^a \left( 1- \left(\frac{x}{a}\right)^2 \right) dx \\ = 2\pi b^2 \left[ x - \frac{x^3}{3a^2} \right]_0^a = \frac{4\pi}{3} ab^2 \tag{8-12} \]

一方、\(y\) 軸の周りに回転してミカン型の回転楕円体を作れば、その体積は \(\frac{4\pi}{3} a^2 b\) となる。(ここから容易に、\(\left(\frac{x}{a}\right)^2 +\left(\frac{y}{b}\right)^2+\left(\frac{z}{c}\right)^2=1\) で表わされる三次元楕円体の体積は \(\frac{4\pi}{3} abc\) であることが予想される。)

円錐の体積は、例えそれが傾いていても垂直に立っている場合と同じであることは、図8-6 の様に円錐を輪切りにしてみれば分かる。そこで、\(x\)-\(y\) 平面で \( \frac{x}{a}+\frac{y}{h}=1\) の直線を考えることによって、底面が半径 \(a\) の円で高さが \(h\) の円錐の体積を求めることが出来る。

\[ V = \int_0^h \pi x^2 dy = \pi a^2 \int_0^h \left( 1-\frac{y}{h} \right)^2 dy \\ = \pi a^2 \left[ y - 2 \frac{y^2}{2h} + \frac{y^3}{3h^2} \right]_0^h = \frac{1}{3} \pi a^2 h \tag{8-13} \]

すなわち、(円錐の体積) = \(\frac{1}{3}\) × (底面の面積) × (高さ) である。 この結果は、底面の図形が円でなくても任意の錐型について成り立つ。(証明せよ)


図8-5: \(x\)-軸のまわりの回転楕円体の体積の計算、\(\eft( \frac{x}{a}\right)^2+\left( \frac{y}{b}\right)^2=1\)


図8-6: 円錐の体積の計算



(例1: 放物線と直線によって囲まれた図形の面積)

図8-7a の様に放物線 \(y=x^2\) とそれに交わる直線 \(y=ab+b\) によって囲まれた図形の面積を求める。交点の \(x\)-座標を \(\alpha, \beta\) とすると \(y\)-座標は \(\alpha^2, \beta^2\) であるから、その様な直線の方程式は

\[ y-\alpha^2=\frac{\beta^2-\alpha^2}{\beta-\alpha} (x-\alpha) \\ y=(\beta+\alpha)(x-\alpha)+\alpha^2=(\beta +\alpha)x-\beta \alpha \tag{8-14} \]

実際、この直線は交点 \((\alpha, \alpha^2), (\beta, \beta^2)\) を通る。そこで、この直線と放物線 \(y=x^2\) で囲まれた図形の面積は

\[ S=\int_{\alpha}^{\beta} \left( (\beta+\alpha)x - \beta \alpha - x^2\right) dx \\ =\left[ -\frac{x^3}{3}+\frac{x^2}{2}(\beta+\alpha)-\beta \alpha x \right]_{\alpha}^{\beta} \\ =-\frac{(\beta^3-\alpha^3)}{3}+\frac{(\beta^2-\alpha^2}{2} (\beta+\alpha) -\beta \alpha (\beta-\alpha) \\ =\left[ -\frac{1}{3} (\beta^2+\beta \alpha+\alpha^2)+\frac{1}{2} (\beta+\alpha)^2-\beta \alpha \right] (\beta-\alpha) \\ =\left[ \frac{1}{6} (\beta^2+\alpha^2) + \frac{2}{3}\beta \alpha - \beta \alpha \right] (\beta-\alpha) \\ =\frac{1}{6} (\beta-\alpha)^3 \tag{8-15} \]


図8-7a: 放物線と直線によって囲まれた図形の面積 (三角形 ABD の面積の 4/3 倍)


図8-7b: 三角形 ADP と三角形 BDO の面積の和は三角形 ABD の面積の 1/4 倍


(追補) 図8-7a の放物線と直線によって囲まれた図形の面積は三角形 ABD の面積の 4/3 倍である。このことは、高木貞治著「解析概論」の積分法の章のはじめにアルキメデスによる求積法として紹介されている。その証明の根拠は、図8-7b に示されている様に三角形 ADP と三角形 BDO の面積の和は三角形 ABD の面積の 1/4 倍となる事である。実際、解析幾何学的方法を用いると、放物線 \(y=x^2\) 上の 2 点 A, B における接線の交点 G を求めてそれと線分 AB の中点 C を結ぶと、線分 CG の中点 D は放物線上の点でありその点における接線は線分 AB と平行であることが分かる。同じことが点 A, D や B, D における接線についても成り立つので、線分 AK=DK, KP=PH 等も成り立っている。そこで、三角形 ADP の面積=2×(三角形 AKP の面積)=三角形 AKH の面積=(1/4)×(三角形 ADG の面積)=(1/4)×(三角形 ACD の面積)=(1/8)×(三角形 ABD の面積) であることが分かる。同様のことが、三角形 BDO の面積についてもいえるので、結局「三角形ADP と BDO の面積の和=(1/4)×(三角形 ABD の面積)」となっている。このプロセスを続けて行くと、(放物線と直線によって囲まれた図形の面積)=(三角形 ABD の面積)×\( \left(1+\frac{1}{4}+\frac{1}{4^2}+\cdots \right)\)=(4/3)×(三角形 ABD の面積) と成っていることが分かる。


(例2: オイラー定数)

「級数」のところで、発散する級数の例として調和級数

\[ 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+ ... → \infty \tag{8-16} \]

とオイラー (Euler) 定数

\[ \gamma = \lim_{n→\infty} \left( 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+ ... +\frac{1}{n} - \log n \right) \\ = 0.57721 ... \tag{8-17} \]

について説明したが、\(\frac{1}{x}\) の積分を使うとこれらを非常に簡単に導くことができる。


図8-8: 式 (8-18) の面積の比較


まず図8-8 から面積を比較して、自然数 \(n=1, 2, 3, ... \) に対して

\[ \frac{1}{n+1} < \int_n^{n+1} \frac{1}{x} dx < \frac{1}{n} \\ \frac{1}{n+1} < \log \frac{n+1}{n} < \frac{1}{n} \tag{8-18} \]

そこで、これを \( n=1\) から \(n\) まで加えて

\[ \sum_{n=2}^{n+1} \frac{1}{n} < \log (n+1) < \sum_{n=1}^n \frac{1}{n} \tag{8-19} \]

はじめの不等式で \( (n+1)→n \) として、1 を足すと

\[ \log (n+1) < 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+ ... +\frac{1}{n} < 1+\log n \tag{8-20} \]

ここから \(n→ \infty\) として、調和級数の発散 (8-16) が得られる。

次に

\[ S_n=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+ ... +\frac{1}{n} - \log n \tag{8-21} \]

として、(8-20) より

\[ \log \left(1+\frac{1}{n} \right) < S_n < 1 \tag{8-22} \]

更に補助級数として

\[ S'_n=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+ ... +\frac{1}{n} - \log (n+1) \\ =S_n - \log \frac{n+1}{n} \tag{8-23} \]

とその一般項

\[ a'_n=S'_n-S'_{n-1}=\frac{1}{n}-\log \frac{n+1}{n} > 0 \tag{8-24} \]

を導入すると (8-20) より

\[ 0 < S'_n = S_n - \log \frac{n+1}{n} < S_n < 1 \tag{8-25} \]

で \(S'_n\) は有界単調増大級数だから、(実数の連続性から) 極限値が存在する。そこで、(8-25) で \( n→\infty\) として

\[ 0 ≦ \lim_{n→\infty} S'_n = \lim_{n→\infty} S_n ≦ 1 \tag{8-26} \]

この極限が (8-17) のオイラー定数 \(\gamma\) である。


(注意) オイラー定数は、ポリガンマ関数

\[ \psi (z) = \frac{d}{dz} \log \Gamma (z) = \frac{\Gamma' (z)}{\Gamma (z)} \\ = \lim_{n→\infty} \left( \log n - \sum_{k=0}^n \frac{1}{z+k} \right) \tag{8-27} \]

の特定の値と関係している。 \(\Gamma(1)=1\) より

\[ \psi (1) = \frac{\Gamma' (1)}{\Gamma (1)} = \Gamma' (1) = -\gamma \tag{8-28} \]

(参考文献) 調和級数 \(\sum \frac{1}{n}\) の発散とオイラー定数


簡単な微分方程式

一般に、物理法則は微分方程式によって表わされる。例えば、質量 \(m\) の物体を真上に投げ上げた時、Newton の運動方程式は地表からの距離 (高さの座標) を \(y\) とすると

\[ m \frac{d^2 y}{{dt}^2} = - mg \tag{9-1} \]

と表わされる。ここに、\(t\) は時間であり距離 \(y=y(t)\) は時間の関数である。また 、\(g \sim 9.8 \hbox{m/s}^2\) は「重力加速度(定数)」と呼ばれる。(9-1) は

\[ \frac{d^2 y}{{dt}^2}=-g \tag{9-2} \]

であるで、2回積分して距離を求めることになるが、その段階で二個の積分定数が入る。これらは初期値条件と呼ばれる。まず、距離を1回微分したものが速度 \(v(t)=\dot{y}(t)=\frac{dy}{dt}\) である。さらにもう一度微分すると加速度 \(a(t)=\dot{v}(t)=\frac{d^2 y}{{dt}^2}\) が得られる。まず、(9-2) を \(t\) で積分して

\[ v(t)=-gt+v_0 \tag{9-3} \]

ここに、\(v_0=v(0)\) は \(t=0\) における初速度である。

更にもう一度積分して

\[ y(t)=-\frac{1}{2}gt^2+v_0 t+y_0 \tag{9-4} \]

ここに、 \(y_0=y(0)\) は \(t=0\) における初期位置である。

\(t=0\) で地表から初速度 \(v_0\) で真上に物体を投げ上げたとすると

\[ y(t)=-\frac{1}{2}gt^2+v_0 t \\ =-\frac{1}{2}g \left( t-\frac{v_0}{g}\right)+\frac{{v_0}^2}{2g} \tag{9-5} \]

より、物体は \(t=\frac{v_0}{g}\) 秒後に最高の高さ \(h=\frac{{v_0}^2}{2g}\) に達し、更に同じ時間が経った後にまた地表に帰ってくることが分かる。


もう一つの例は、原子核における放射性物質の崩壊過程である。放射性元素の崩壊率は、その物質の存在量 (例えば、時間 \(t\) における原子核の個数 \(N(t)\)) に比例することが知られている。その比例係数 (崩壊係数という) を \(\lambda\) とすると、この法則は

\[ \frac{d N(t)}{d t} = - \lambda N(t) \tag{9-6} \]

と表わされる。(右辺のマイナス記号は、存在量が減少することを表わす。)

(9-6) を解くために、両辺を \(N(t)\) で割り \(t=0\) から \(t\) まで積分して置換積分法を適用すると

\[ \int_0^t \frac{1}{N(t)} \frac{d N(t)}{d t} dt = - \lambda \int_0^t dt \\ \int_{N_0}^{N(t)} \frac{1}{N} dN = - \lambda (t-0) \\ \log N(t) - \log N_0 = - \lambda t \\ \log \frac{N(t)}{N_0} = - \lambda t \\ N(t) = N_0 e^{-\lambda t} \tag{9-7} \]

ここに、 \(N_0=N(0)\) は最初存在した原子核の個数である。(9-7) 式は、それが \(\tau=\frac{1}{\lambda}\) 秒後に \(\frac{1}{e}\) に減少することを示している。

物理量の時間に関する指数関数的減少は、放射性元素の崩壊以外にも熱伝導現象等においても表われる。


単位円上を一定の速度で回転する点の運動を \(x\)-軸や \(y\)-軸方向に射影したものは、単振動と言って簡単な三角関数で表される。角度 \(\theta\) をラジアンで測り、その時間微分を距離の時間微分に見立て、それを角速度 \(\omega=\dot{\theta}(t)\) という。 \(t=0\) の時に \(x\)-軸上の点 \((1, 0)\) にある点が、一定の角速度 \(\omega\) で複素平面上の単位円を反時計回りに運動する時、\(t\) 秒後の円弧の長さは \(\omega t\) であるので、この運動は等速円運動である。複素数 \(z(t)=e^{i\omega t}\) は複素平面上のこの点の位置を表している。また、Euler の公式 (6-20) はまさに \(x\)-座標と \(y\)-座標がそれぞれ \(\cos \omega t\) と \(\sin \omega t\) であることを示している。

\[ z(t)=e^{i\omega t}=\cos \omega t + i \sin \omega t \tag{9-8} \]

この関数が満たす微分方程式は

\[ \frac{d z(t)}{d t} = i\omega z(t) \tag{9-9} \]

である。これを、「微分作用素」\(D = \frac{d}{dt}-i\omega\) を導入して

\[ D z(t) = 0 \quad \hbox{with} \quad D=\frac{d}{dt}-i\omega \tag{9-10} \]

と書くと便利である。更に、\(t\) や \(\omega\) が実数であることを考えると

\[ D^*=\frac{d}{dt}+i\omega \\ D^* z^*(t)=0 \\ D^*D=DD^*=\frac{d^2}{{dt}^2}+{\omega}^2 \\ D^*D z(t) = D^*D z^*(t) = 0 \tag{9-11} \]

が成り立つ。従って

\[ \frac{d^2 f(t)}{{dt}^2}+{\omega}^2 f(t)=0 \tag{9-12} \]

の解は

\[ f(t) = C e^{i\omega t} + D e^{-i\omega t} \\ = A \cos \omega t + \sin \omega t \tag{9-13} \]

である。ここに、\(C, D, A, B\) は任意定数で物理的状況に応じて決定されるべきものである。

微分方程式 (9-12) が現れる例としては、バネによる単振動がある。質量 \(m\) の物体を繋いだバネの平衡位置からの変位を \(f(t)\) とすると、運動方程式は

\[ m \frac{d^2 f(t)}{{dt}^2} = - k f(t) \tag{9-14} \]

となる。ここに、\(k\) は「バネ係数」と呼ばれる。\(\omega=\sqrt{\frac{k}{m}}\) により \(\omega\) を定義すると、(9-14) は (9-12) の形となる。


より複雑な単振動の応用としては、減衰振動がある。これは、(9-6) や (9-9) で \(-\lambda\) や \(i\omega\) を一般の複素数 \(\alpha=-\varepsilon + i \omega'\) として得られる。ここに、減衰係数 \(\varepsilon\) は振動数 \(\omega\) より充分小さく \(\omega \gg \varepsilon ≧ 0\)、\(\omega'=\sqrt{{\omega}^2-{\varepsilon}^2} \sim \omega\) とする。(9-10) にならって、\(D=\frac{d}{dt}-\alpha\) とすると

\[ D e^{\alpha t} = 0 \quad , \quad D^* e^{{\alpha}* t} = 0 \\ D^* D = D D^* = \frac{d^2}{{dt}^2} - (\alpha+{\alpha}^*) \frac{d}{dt} +\alpha {\alpha}^* \\ =\frac{d^2}{{dt}^2} + 2\varepsilon \frac{d}{dt} + {\omega}^2 \tag{9-15} \]

となる。ここに、\(\alpha {\alpha}^* = (-\varepsilon)^2+{\omega'}^2 = {\omega}^2\) を使った。 そこで

\[ D^* D e^{\alpha t} = D^* D e^{{\alpha}^* t} = 0 \tag{9-16} \]

であるので

\[ \frac{d^2 f(t)}{{dt}^2} + 2\varepsilon \frac{d f(t)}{dt} + {\omega}^2 f(t) = 0 \tag{9-17} \]

の一般解として

\[ f(t) = C e^{\alpha t} + D e^{\alpha* t} \\ = e^{-\varepsilon t} \left( C e^{i \omega' t} + D e^{-i \omega' t} \right) \\ = e^{-\varepsilon t} \left( A \cos \omega' t + B \sin \omega' t \right) \tag{9-18} \]

が得られる。ここに、\(C, D, A, B\) は再び初期条件から決まる任意定数である。 図9-1 に \(A=0, B=1\) の時の \(f(t)\) の大体の振舞いを挙げておく。この様な減衰振動は、電気回路における共振振動においても現れる。

図9-1: 減衰振動 \(f(x)=e^{-\varepsilon x} \sin \omega' x \) のグラフ、\(\varepsilon=1, \omega'=\pi \) の場合


最後に、近代物理学で重要な役割をはたす波動現象について簡単に述べる。 一般に二変数の関数 \(f(x, t)\) がある時、今注目している変数以外の変数を定数の様に考えて微分を考えたものを偏微分といい \(\frac{\partial}{\partial t}\) 等で表わす。(それに対して、これまでの微分を常微分、これまでの微分方程式を常微分方程式という。) すなわち

\[ \frac{\partial f(x, t)}{\partial t} = \lim_{h→0} \frac{f(x, t+h)-f(x,t)}{h} \\ \frac{\partial f(x, t)}{\partial x} = \lim_{h→0} \frac{f(x+h, t)-f(x, t)}{h} \tag{9-19} \]

等である。ここで、\(x\) と \(t\) を座標と時間として、これまでの \(D\) を拡張して \(D=\frac{1}{c} \frac{\partial }{\partial t}+\frac{\partial}{\partial x}\) とする。ここに、例えば \(c \sim 30\) 万 km/s \(= 3×10^8\) m/s は光速である。\(D\) は \(\alpha=i(kx-\omega t)\) として \(D e^{\alpha}=0\) を満たす様にできる。すなわち、合成関数の微分法の公式を利用して

\[ D e^{\alpha} = \left( \frac{1}{c}\frac{\partial \alpha}{\partial t} +\frac{\partial \alpha}{\partial x} \right) \frac{d e^{\alpha}}{d \alpha} \\ = i \left( - \frac{\omega}{c} + k \right) e^{\alpha} \tag{9-20} \]

であるから、 \( k=\frac{\omega}{c}\) とすると \(D e^{\alpha} = 0\) が成り立つ。

(9-20) は実は非常に一般的な性格を持っている。すなわち、偏微分方程式

\[ \left( \frac{1}{c} \frac{\partial}{\partial t} + \frac{\partial}{\partial x} \right) f(x, t) = 0 \tag{9-21} \]

の解は、必ず \(f(x, t)=f(x-ct)\) の形を持っている。より正確には、関数 \(f(x)\) が \(x\) の微分可能関数である時、それがどんな関数であっても

\[ \left( \frac{1}{c} \frac{\partial}{\partial t} + \frac{\partial}{\partial x} \right) f(x-ct) = 0 \tag{9-22} \]

が成り立つ。証明は再び合成関数の微分法による。(9-22) を波動方程式という。

特に \(f(x)=e^{ikx}\) の時、これを平面波という。ここで

\[ k = \frac{\omega}{c} \tag{9-23} \]

と置くと、(9-20) で導いた結果が得られる。ここに、\(k\) は波数、\(\omega\) は平面波の角振動数と言われる。この時

\[ f(x-ct)=e^{ik(x-ct)}=e^{i(kx-\omega t)} \tag{9-24} \] で、\(\varphi=kx-\omega t\) は平面波の位相といわれる。その意味は、 \(\varphi\) が \(2\pi\) 増えるごとに同じ波形が繰り返されるからである。\(x\) が \(x+\Delta x\) となり、\(t\) が \(t+\Delta t\) となると、位相は \(\Delta \varphi = k \Delta x-\omega \Delta t\) だけ増えるので、\(\Delta \varphi = 0\) の時は \( \frac{\Delta x}{\Delta t}=\frac{\omega}{k}=c\) より波動は(位相)速度 \(c\) で進んでいることが分かる。これは、一般の波動 (9-22) についても言えることである。\(f(x-ct)\) を進行波といい、\(f(x+ct)\) を後退波という。

(9-23) で \(k=\frac{2\pi}{\lambda}\) として \(\lambda\) を振動の波長という。 \(\Delta x=\lambda\) で位相が \(2\pi\) だけ増え、一波長終えるからである。また \(\nu=\frac{\omega}{2\pi}\) を振動数といい、 \(T=\frac{1}{\nu}\) を振動の周期という。\(\Delta t=T\) で位相が \(2\pi\) 減り、一周期前の波動が繰り返される。 \(\nu\) は \(f\) (frequency) とも書き、一秒間に繰り返す振動の回数である。これらを用いれば、(9-23) は

\[ \lambda \nu = \lambda f = c \tag{9-25} \]

と表わされる。この式は、波長と振動数と波の進行速度との関係を表わしている。

光の速度 \(c\) は、Einstein の相対性理論で基本的な定数であるが、これと並んで量子力学における微視の世界の基本的定数としてプランク定数 \(h\) (Planck constant) がある。これを \(2\pi\) で割った \(\hbar=\frac{h}{2\pi}\) もよく用いられる。(9-23) に \(\hbar\) を掛けて \(\hbar \omega = h \nu = E\) を光量子のエネルギー、 \(\hbar k = p\) を運動量と解釈すると

\[ E = c p \tag{9-26} \]

という関係が得られる。これが、Einstein によって光電効果の説明に使われた光量子仮説の関係式である。この関係は、光の速度で飛ぶ質量ゼロの粒子の一般的関係である。(有限質量の粒子に対しては、\(\frac{E}{c}=\sqrt{(mc)^2+p^2}\) が成り立つ。)


(参考文献)

1. 「零の発見: 数学の生い立ち」吉田洋一著、岩波新書

2. 「One, two, three ... Infinity: Facts and Speculations of Science」George Gamow, Dover Books on Mathematics

3. 「やさしい微積分」L.S. ポントリャーギン、坂本實訳、ちくま学芸文庫

4. 「解析概論」高木貞治著、岩波書店

5. 「A Course of Modern Analysis」E.T. Whittaker and G. N. Watson, Cambridge Mathematical Library

(「解析分野」の項、終了)

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